リトアニア旅行エピソード: 伝説のŠventaragis slėnisを探して

今回は700年近い歴史を誇るリトアニアの街ヴィリニュスにまつわる伝説を追います。

リトアニアに伝わるヴィリニュス遷都にまつわる伝説

ヴィリニュス(Vilnius)という街を知っている日本人はそう多くないにしても、このブログ内では非常に重要な場所です。

この街はリトアニアの首都ですが、首都になった経緯が伝説となっています。その昔リトアニアの首都はトラカイ(Trakai)でしたが、ゲディミナス大公(Gediminas)が夢で啓示を受けたためヴィリニュスに城を築いて遷都したというものです。14世紀のことです。

ヴィリニュス訪問を考えたことがある方はどこかでこの話を読まれたことがあるかもしれません。

私が気になったのは

私はこの話について深く調べたことがなく、啓示の真偽も気にかけていません。そのため簡潔に説明してしまいましたが、少し違う部分がどうしても気になりました。

伝説によるとゲディミナス大公が夢を見た場所はŠventaragio slėnis(Sventaragis valley, シュヴェンタラギスの谷)とされていますが、これは具体的にどこなのでしょうか。

ゲディミナス塔からそう遠くないところにシュヴェンタラギス通り(Šventaragio gatvė)というのがあります。もしかしてこのあたり…?

ゲディミナス大公が築いた城は既になく、観光スポットとしては塔だけが城があった丘の上に残っています。しかし、見晴らしを良くするため丘の木を全て伐ったところ土砂崩れが起きてしまいました。

私は2017年3月、2017年9月、2018年7月にヴィリニュスを訪れましたが、いずれも修復中とのことで丘が閉鎖されていました。

この記事の舞台は2017年3月ですが、ヴィリニュスの父親のようなゲディミナスさんを完全無視して帰るわけにもいきません。そこでシュヴェンタラギスに目をつけました。

シュヴェンタラギスの端?

Šventaragio slėnisが気になったもう一つの理由があります。私がリトアニアに興味を持ったきっかけであり、何度か紹介しているアーティストAistė Smilgevičiūtė ir SKYLĖの名曲Šventaragis(シュヴェンタラギス)のサビの最後に以下のフレーズがあります。

“Jeigu tu paklydai mano meile
aš surasiu tave Šventaragio gale”

(もしあなたが道に迷ったら / 愛する人よ / あなたを見つけるわ / シュヴェンタラギスの端で)

※作詞: Aistė Smilgevičiūtė

上記のシュヴェンタラギス伝説を題材にした曲ですが、いったいどこで見つけてくれるのでしょうか。

手がかりを探して

まずはインターネットでシュヴェンタラギスの谷とは何なのか調べることに。英語でSventaragis Valleyと入れて検索してみましたが、ヴィリニュスにあるということ以外有力な情報にはたどり着けませんでした。

この時外出中ですでに日没直前だったので、インターネットはここまでにしてとりあえずゲディミナス塔の方面に歩き出しました。ゲディミナス塔は旧市街の外れにあります。観光スポットの三つの十字架の丘などもこのあたりですが、ここを通り過ぎるともう街とはいえない様子でした。そして谷らしきものは見当たらず。

もう外はほぼ暗くなっていて時間がなかったので、地元の人っぽい通行人を狙ってリトアニア語で「すみません、シュヴェンタラギスの谷がどこか知りませんか?」と聞いてみると英語で答えてくれました。

リトアニア人は英語が上手ですし、私はリトアニア語で説明されても理解できるかどうかわからないので助かりました。

「英語で大丈夫だよ。シュヴェンタラギスの谷って伝説の?あれはヴィリニュスの街全体のこと」
「えっ、そうなんですか?」
「三つの十字架の丘には登った?」
「ええ、さっき行ってきました」
「あそこから見るとヴィリニュス全体がお盆の形になっているのがわかったと思うけど、それがまさにシュヴェンタラギスの谷なんだよね」
「谷を探しているつもりでしたが実は今まさにシュヴェンタラギスの谷にいるってことなんですね。ありがとうございました」

えっ?それならもうとっくに写真に収めましたけど…

納得がいかないのですが

衝撃の事実。しかし特定のスポットを期待していた私は腑に落ちませんでした。そこで宿に戻ってから、翌日会う約束をしていたAistė Smilgevičiūtė ir SKYLĖのマネージャーさんにこんなメールをしました。

「ここ数日で疲れが溜まっているので明日の朝に備えてもう休んでます。ところで数世紀前の伝説に出てくるシュヴェンタラギスの谷ってどこですか?そこら辺の人に聞いたらそれはヴィリニュスそのものだって言われたんですが…」

すると「明日連れて行くよ」という返事がきました。

そしてついに

次の日。マネージャーさんによると、シュヴェンタラギスの谷は狭義ではヴィリニュスを流れるNėris川とVilnia川が交わる部分を指すのだそうです。ちょうど丘のふもとあたりで二つの川が交わっていて、その様子がわかる地点に車を停めてくれました。

当時は車の中から見ただけで写真を撮らなかったので、2018年の7月に戻って来た時にこの写真を撮りました。

「伝説に出てくる場所はだいたいこのあたりと言われてるよ。
Skylėの歌詞で俺が好きなフレーズの一つが”もしあなたが道に迷ったら/愛する人よ/あなたを見つけるわ/シュヴェンタラギスの端で”なんだけど、これは意外と深くてね。

“シュヴェンタラギスの端であなたを見つける”は少し謎めいて聞こえるけど、別に他の場所だって構わないし普遍的なことを言ってるにすぎない。

この曲がシュヴェンタラギスの伝説から作られたのは本当だけど、このメッセージは誰にでも伝えられるでしょ?

Skylėの歌詞はほとんどがリトアニアの伝説をモチーフにしてるけど、誰にでも共通するテーマをいつも持ってるってところが重要なんだよ」

マネージャーさんの言葉です。なるほど、リトアニアの伝説をテーマにしながらも誰もに伝わるようなメッセージを込めたのがSKYLĖの歌詞のようです。

最後に

このヴィリニュス滞在はお祭り期間だったので観光スポットをほとんど訪れることなく帰ってきましたが、たくさん特別な体験をすることができました。
SKYLĖの歌詞を和訳した記事があるのでぜひご覧ください。→ [公認]歌詞和訳 Aistė Smilgevičiūtė ir Skylė “Septynis ilgus metus”

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