Marillion: Script for a Jester’s Tear(1983) 曲紹介 ※ライブ(ボーカル: ホガース)

イギリスのプログレッシブロックバンドMarillionのアルバム”Script for a Jester’s Tear”(1983)に収録されている楽曲“Script for a Jester’s Tear”の楽曲レビューです。

Marillionの二人のボーカリストについて

Marillion(マリリオン)イングランドのプログレッシブロックバンドです。1stアルバム”Script for a Jester’s Tear”から数えると彼らのキャリアは2018年現在ですでに35年となり、メンバーもそれぞれ60歳近いベテランバンドです。

マリリオンは元々プログレッシブロックの時代が終わり人気がなくなっていた80年代に、黄金期ともいえる70年代プログレッシブロックを継承するような音楽とともに出てきたバンドです。

マリリオンは、このジャンルが90年代に完全復活するまでの時代を支えた第二世代と言えます。そんなマリリオンもすでに大ベテランの域に達し、現在活動中のプログレバンドを代表するような存在になっています。

そのマリリオンの初期のボーカリストはFishでした。70年代プログレッシブロックを代表するバンドの一つであるGenesisのPeter Gabrielを思わせる歌声に加え、マリリオンのサウンド自体がGenesis系だったことからマリリオンがチャートに登場するようなバンドに成長するにあたって重要な役割を果たしました。

しかしこのFishは、4枚のアルバムを発表した後1988年にバンドを去ってしまいました。それ以降はソロでキャリアを続けています。

Fishの穴を埋めたのはSteve Hogarth(スティーヴ・ホガース)で、この人は元々The Europeans, How We Liveといった他のバンドで活動していました。

その証拠として、マリリオンにホガースが加入してから2作目にあたる”Holidays in Eden”に収録された”Dry Land”はHow We Liveの楽曲のカバーです。それ以降マリリオンのボーカルの座はホガースで安定しています。

ホガース加入後のライブでは彼が加入して以降の楽曲を中心にセットリストが組まれていますが、時々Fish時代の楽曲も演奏されライブが盛り上がります。今回紹介している”Script for a Jester’s Tear”はマリリオンのデビューアルバムの最初のトラックで、Fish期を代表する楽曲でもあります。

“Script for a Jester’s Tear”のオリジナルはこちらです。

Steve HogarthによるScript for a Jester’s Tearのボーカルについて

“Script for a Jester’s Tear”は数々の楽想が一つの物語を形成しているという点がプログレらしい、9分にも及ぶ長大な楽曲です。ホガースが加入してからもプログレ的な作品は生まれていますが、Fishのボーカルとそれによって生み出される演劇感は唯一無二で、他のボーカリストがこれを歌おうとしても真似するのが非常に難しいはずです。

このパフォーマンスにおけるホガースのボーカルを聴いて、私はこれ以上ないカバーだと思いました。「マリリオンはFish以外認めない!」というタイプのファンにとっては邪道に聞こえるのかもしれませんが、オリジナルと同じようにはできないということを前提としながらホガースの魅力を最大限に生かしたこのカバーは称賛に値すると思います。

声の細いFishのボーカルではより感傷的に聞こえるこの楽曲ですが、ホガースはそれを無理に追い求めない代わりに楽曲全体をドラマティックに演出しています。

特に見所は中盤からで、かすれ声を出しながらの熱唱と全身での迫真の演技による表現はFishよりも悲劇的です。最後には物語の主人公のように本当に力尽きているようにさえ見えます。

他人から受け継いだ、自分で歌詞を書いてもいない作品をここまで感情移入して演じられる、そして聴き手を感動させられる、そこまでの力量を備えたホガースは真のボーカリストだと思いました。

コメントを残す