実力は無敵レベルのAnathemaがスターバンドになれない理由

Anathema(アナセマ)というバンドを知っていますか?

私の大好きなバンドの一つで人気もあるように感じるのですが、客観的に数字を見てみると意外にもマイナーバンドどまりであることがわかります。

音楽を絶対評価することはほぼ不可能なのでなんともいえませんが、私がAnathemaの音楽を聴いている限りではなぜこれが中途半端な人気で終わっているのかわかりません。しかしこれには理由があるはずです。それを自分なりに考えてみました。

Anathemaとは

まずはAnathemaがどんなバンドなのか紹介しましょう。

Anathemaはイングランド・リヴァプール出身のロックバンドです。リヴァプールはThe Beatlesの出身地でもあります。

1992年のEP”Crestfallen”, 1993年のアルバム”Serenades”でデビューし、2018年までに11枚のスタジオアルバムを発表しています。

世界中にファンを擁するバンドで、日本にも2015年に一度来ています。ファンが特に多いのはメランコリック音楽が人気のトルコです。

Anathemaの楽曲例

Anathemaの楽曲をいくつか紹介します。

まずは、デビュー当初のデス/ドゥームメタル路線で作られた曲から。

♪The Silent Enigma (1995)

最高…

しかしこれを聴きたいと思うのはかなりの物好きでしょう。私はドゥームメタル好きなので喜んで聴きますが。

この後ゴシックメタルに接近していきます。

♪Angelica (1996)

…完璧ですね。この上なくメランコリックで美しいです。

しかしこれも一般人に聴かれるタイプの音楽ではありません。

この後Anathemaはメタルを捨てます。

♪Forgotten Hopes (1999)

ライブ映像を選んでみました。この陰気さがたまりません。

売れるにはまだ暗すぎる気がします。

この後はプログレッシブロック・ポストロックに接近していきます。

♪Flying (2003)

サウンドが切なすぎて泣けます。これはもう別世界です。

これなら一般リスナーでもぎりぎり聴けそうです。

それから7年経ってようやくプログレバンドを多数抱えるKscopeレーベルから次のアルバムが発売されました。

♪Universal (2010)

墓場まで持っていきます。私はライブでこの曲を聴きましたが、この曲の後半部分を生で聴いていた時の感動はこれまでの人生のどんな瞬間よりも強かったです。泣きじゃくり通しました。

これは「アート作品」と捉えるべき楽曲で、存在する枠組みを一度全部取り払ってから作曲されたような純粋さがあります。

♪Untouchable Part 1 (2012)

気合を入れたい朝はこれで決まりです。

Anathemaは完全に光の世界のバンドと化しました。これならテレビの前でしか音楽を聴かない人たちでも聴けますよね。

♪Springfield (2017)

次の路線はオルタナティブロック・ポストロック・エレクトロニカです。Untouchable Part 1を折り返し地点として再びディープなリスナー向けになっていますが、これも一級品です。

Anathemaはいったいいくつのジャンルでトップレベルに君臨すれば気が済むのでしょうか…

数字で見るAnathemaの人気度

ここからは他の世界的バンドと数字を比較してAnathemaの立ち位置を見てみましょう。

ここまでの私の楽曲コメントに反映されていたような「Anathemaは最強」という幻想が打ち砕かれていきます。

使う数字は

  • Facebookページのフォロワー数
  • YouTubeで人気の動画トップ5の再生回数合計
  • Spotifyのリスナー数

です。全て2018年11月に調べたものです。

Anathemaと比較するバンドは

  • Pink Floyd (70年代・プログレッシブロック)
  • Iron Maiden(80年代・ヘヴィメタル)
  • Radiohead(90年代・オルタナティブロック)
  • Coldplay(00年代・ポップロック)

です。全て世界的に有名なイングランド出身のロックバンドです。それぞれのバンドが活躍した時期で70年代から00年代までをカバーできるように、そしてそれぞれのバンドができるだけAnathemaの音楽の主なジャンル(プログレ・メタル・オルタナ)を代表するように選びました。

Facebookのフォロワー数

Pink Floyd… 2800万人
Iron Maiden… 1300万人
Radiohead… 1100万人
Coldplay… 3800万人

Anathema… 36万人

YouTubeで人気の動画トップ5の再生回数合計

Pink Floyd… 8.8億回
Iron Maiden… 2.2億回
Radiohead… 4.7億回
Coldplay… 41.5億回(1位はThe Chainsmokersとの共作なのでノーカウントとし、2-6位を集計)

Anathema… 1400万回

Spotifyのリスナー数(今月のリスナー/フォロワー)

Pink Floyd… 950万人/759万人
Iron Maiden… 416万人/367万人
Radiohead… 859万人/367万人
Coldplay… 2899万人/1618万人

Anathema… 18.2万人/14.8万人

データの評価

どの数字を見ても4バンドとAnathemaの間には二桁程度の差があります。もちろん比較対象とした4バンドはどれも超一流ですが、それにしてもこれほど圧倒的な差があるという事実はショッキングです。

このデータを見る上での注意点として

  • インターネットメディアにおける数字なので各バンドのプロモーション方法が影響している
  • Pink Floydのファン層の年齢は高いので実際の人気に比べてインターネットの数字が相対的に少なく出ている可能性がある
  • RadioheadのSpotifyにおける今月のリスナー数/フォロワー数の値が不自然に大きいが、これは”Creep”だけ聴くリスナーの数に起因している可能性がある
  • ColdplayのSpotifyにおける今月のリスナー数/フォロワー数の値も大きいが、これにはライトなファンの「つまみ聴き」が影響している可能性がある

などが挙げられますが、これらを考慮してもしなくても4バンドとAnathemaの差は歴然としています。

Anathemaがマイナーな理由

考えられるものをいくつか紹介します。

曲が長い

曲の長さは重要です。ほとんどのリスナーは曲の長さが5分を超えると「長い」と感じるようです。統計をとったわけではありませんが、私の知り合いはだいたい「5分以上は長い」と言います。

Anathemaの曲には長いものが多いです。11枚のスタジオアルバムに本編として収録されている114曲のうち、67曲が5分を超えます。そのうち35曲が6分を超え、16曲が7分を超えます。

Anathemaの音楽が誰かの耳に入ったとしても、長い曲ばかりのアルバムを聴く気にはならないでしょう。また、聴く前に6分以上の楽曲であることがわかると聴いてみる気すら失せるかもしれません。

過去にやっていたジャンルが怖い

Anathemaは当初デス/ドゥームメタルゴシックメタルに分類されるバンドでした。Anathemaの名前をどこかで聞いて調べてみたリスナーがこれらの語を目にしたら、「このバンドは少し危ないんじゃないか、聴くのはやめておこう」と思うかもしれません。

残念ながらこれらのメタルは一般人にとっては恐怖の対象です。後からポップな楽曲を生み出しても、獲得できるはずのリスナーが逃げて行ってしまうと人気が出ません。

ファン層が怖い

Anathemaのファンは怖い人、という意味ではありません。優しい心を持った人が多いと思います。

しかし、アンダーグラウンドであるエクストリームメタルシーン、プログレッシブロックシーンにおける長年の活動によって形成されたファン層はスターバンドのそれとは異なります。

新規ファンとなりえる人が「Anathemaを聴くのはメタルファンとかプログレファンとか、なんとなく気難しくて陰気な人たちなんだ」と思い込んでしまうと、Anathemaが音楽性を常に変化させているにも関わらずファンが増えません。

逆に、2ndアルバムの”The Silent Enigma”(1995)をAnathema最高傑作とするような陰鬱さをメタル要素を求めるファン内部のグループはAnathemaの音楽性の変遷とともに離れて行ってしまうかもしれません。そう思う理由は、YouTubeのコメント欄に「”The Silent Enigma”がAnathemaの全盛期だった、戻ってきてくれ」という趣旨のコメントが多数見られるからです。

なお、プログレッシブロックシーンとも書きましたが、私が日本のプログレ界隈を観察した限りAnathemaはほとんど聴かれていません。

ジャンルを無視すれば評価されそうな普遍性はあるのですが、現状ではどのジャンルでも損をしているバンドといえます。

ロックが聴かれなくなっている

Anathemaはこれまで色々な音楽に挑戦してきましたが、どれもロックという枠からは外れていません。そのロックが今どんどん聴かれなくなっています。

私は人と知り合うとほとんどの場合相手がどのような音楽を聴くのか簡単にでも質問しますが、返ってくる答えは必ずしもロックではありません。最近ではポップ・クラブミュージック・ヒップホップが主流のようです。

ロックの人気が落ちる前にブレイクしたバンドは今でもよく聴かれますが、Anathemaは最近まで売れそうな要素のない音楽をやっていたのでもう間に合いません。

最後に

Anathemaは素晴らしい音楽をやっているに関わらずスターバンドの仲間入りはできないと思います。

私の意見にどれほど信頼性があるかはわかりませんが、自分なりになぜそうなのかを分析してみました。

私はそれでも良いのでこれからもAnathemaが自身のやりたい音楽を作り続けて私たちに届けてくれることを望んでいます。

 

 

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