Anathema: “Alternative 4” アルバムレビュー

イギリスのロックバンドAnathemaのゴシック的なアルバム“Alternative 4”(1998)のレビューです。

Anathemaのアルバム”Alternative 4″

私は最近ファンになったのでリアルタイムで追ってはいませんでしたが、できる範囲で説明します。

Anathema(アナセマ)はThe Beatlesなども生んだイングランド・リヴァプール出身のバンドです。

2ndアルバム”The Silent Enigma”までドゥームメタルをやった後3rdアルバムでゴシックメタルの傑作”Eternity”を生み出し、さらにメタル色を弱めていった中で完成したのがこの1998年発表の4thアルバム“Alternative 4”です。

アーティスト紹介記事にもっと情報を載せています。↓

Anathema: アーティスト紹介

このアルバムではまだヘヴィな音も所々に使われていますが、もうメタルではなくなったといえる転換点的な作品です。

元々バンドのボーカリストではなく専任ギタリストで2ndアルバムからボーカルをとることになった現在のフロントマンVincent Cavanagh(ヴィンセント・キャヴァナー)のボーカルはまだ慣れていないなという印象も与えますが、デスボイスで歌っていた2nd、非常にクセの強いダミ声で歌っていた3ndに比べると格段に聴きやすくなっています。

トラックリスト

1. Shroud of False – 1:36
2. Fragile Dreams – 5:32
3. Empty – 3:00
4. Lost Control – 5:49
5. Re-Connect – 3:52
6. Inner Silence – 3:08 ★★
7. Alternative 4 – 6:17
8. Regret – 7:58
9. Feel – 5:28
10. Destiny – 2:15

ボーナストラック

11. Your Possible Pasts – 4:28
12. One of the Few – 1:51
13. Better of Dead – 4:22
14. Goodbye Cruel World – 1:41

メンバー

Vincent Cavanagh – ボーカル・ギター
Shaun Steels – ドラム
Duncan Patterson – ベース・キーボード・ピアノ
Danny Cavanagh – ギター・キーボード・ピアノ

ゲストミュージシャン

Andy Duncan – “Empty”でのドラムループ
George Rucci – バイオリン

各曲レビュー

Shroud of False

序曲的な短い楽曲です。冒頭から美しいピアノが奏でられ、前作”Eternity”の1曲目”Sentient”を想起させます。

しかしシンフォニック調の”Sentient”に比べこの”Shroud of False”はロック調に展開していき、次の”Fragile Dreams”にバトンを渡します。つかの間ですがドラムとディストーションギターが加わり爆発する瞬間が見事です。

ボーカルは少ししか入っていませんが、ここだけでもVincentの歌唱の変化は顕著に見られ、早くも生まれ変わったAnathemaによるアルバムへの期待を膨らませます。

Fragile Dreams

ライブ映像です。

Anathemaの代表曲でありライブでも定番の楽曲です。Vincentの兄であるギターのDaniel Cavanagh(ダニエル・キャヴァナー)によるイントロのフレーズはシンプルながら耳に残るメロディラインを持っていて楽曲の顔となっています。

サビ部分はかなりヘヴィなディストーションギターをバックにしていてメタル時代の名残を感じさせますが、全体的にそこまで激しくはなく聴きやすい楽曲です。

ボーカルはそれほど多くなくかつシンプルで、やはり繰り返されるイントロのギターフレーズが強調されています。”Fragile Dreams”を数回聴くだけでこのメロディが頭に入ってしまうはずです。

私はもっとメロウな曲の方が好みなのですが、それでも非常にキャッチーで適度に派手なこの曲はAnathemaのディスコグラフィ全体の中でも気に入っています。

Empty

短めの楽曲。囁くような低音のボーカルに導入されますが全体的には激しめです。メロディよりも力で押してくる感じがあり好みではなかったのですが、後半に突如挿入される静かなピアノパートが素敵だなと思いました。

Lost Control

ピアノが単純ながら寂しげなフレーズを奏でる中、前作”Eternity”を思わせる独白的な印象の静かな低音ボーカルで幕を開けます。これに続くエレキギターを交えたメランコリックな間奏が絶品で、一瞬で気に入ってしまいました。嬉しいことにこの気怠い雰囲気がずっと続きます。

ピアノは常に鳴っており、途中で入るアコースティックギターによるソロも非常に美しく、このアルバムのソフト系の楽曲でも群を抜いて素晴らしいです。静一辺倒ではなく、静かな中でも楽想ごとにメリハリがついていて聴きやすいのも良い点です。

ラストはなんとバイオリンソロで、純粋なバンドサウンドにこのタイプの楽器が加わることで美しいメロディラインが際立っています。これも名曲。

Re-Connect

プログレとゴシックの香りが両方する楽曲。この曲の聴きどころは中盤からです。

序盤はギターが少し秀逸かなというくらいの平凡なロックのように聞こえるのですが、早い段階で4拍子から3拍子に切り替わり曲が終わってしまうのではないかというほどに落ち着き始めます。

そして中盤、静かな演奏に乗せた催眠的なボーカルハーモニーが奏でられるのですが、これと交互に現れる形で突然暴力的なドラムとディストーションギターによる打撃が嵐のように吹き荒れます。

これが何回か繰り返される印象的なパートが終わると演奏は狂い出し、絶叫と共に急にボーカルが熱を帯び始め音楽もメロディアスに。4分に満たない楽曲ですがいくつもの楽想が含まれていて、これが全て1曲の中に入ってるの!?と驚かされるほど攻めた構成を持った名曲です。

Inner Silence

短い楽曲で間奏曲的な印象もあるものの、それだけにとどめておいてはあまりにももったいない名曲。

冒頭は悲しくも美しいピアノとストリングスのイントロです。これだけでも素晴らしいのですが、前作”Eternity”収録の名曲”Angelica”を思わせるギターが加わると共にボーカルが登場し、間もなくディストーションギターが波のように押し寄せてきます。

このメランコリックでエモーショナルな雰囲気は完璧で、アルバム中最も好きな瞬間の一つです。このギターの音に聴き手である自分の中にある全てが押し流されていき心が浄化されそうな、そんな楽曲です。個人的にこのアルバムで最も気に入っています。

Alternative 4

タイトルトラック。アルバム中ではゴシック色が特に強いです。

不安を煽るようなイントロからすでにそれらしい雰囲気があり、ボーカルのスタイルも少しだけ”Eternity”に戻ったようなくどい歌唱です。テンポは非常に遅く、一曲通してダークな表情が貫かれています。展開はあまりないものの、徹底した暗さは魅力です。

音楽性がソフトな感じにシフトした中アルバムのタイトルトラックが一番前作の”Eternity”に近いというのは興味深いですが、理由はわかりません。次作”Judgement”でもタイトル曲が最もこの”Alternative 4″の楽曲群に近いです。

Regret

本アルバム中最長の曲です。

薄闇を思わせる曲調が秀逸で、”Lost Control”や”Inner Silence”のようなソフト系楽曲に分類されると思います。しかしディストーションギターが押す場面もあり、長い楽曲を退屈させずに聴かせる抑揚もバッチリです。

ボーカルから感じられる哀愁も見事で、Vincentはボーカリストとして過渡期にありながら非常に良い味を出しています。1996年の”Eternity”ではまだ聴きにくかったのに1999年作の”Judgement”では完全にボーカルの役目を自分のものとしているので、相当頑張ったのでしょう。

Feel

遅いテンポで奏でられる枯れ気味の楽曲。これもなかなか良いです。

全体的にダウナーな雰囲気があり、コーラスの部分すら非常にテンションが低くなっていますが、これはかなり印象的なフレーズなのですんなりと耳に入ってきます。

ほとんど繰り返しによって構成されていますが、曲が進むにつれてだんだんと棘が出てくるのが面白いです。

Destiny

寂しげな短い終曲。ギターとキーボードのユニゾンで奏でられるリフレインが物悲しいです。終始静かに演奏され急に終わります。

Your Possible Pasts

ここからはボーナストラックのカバー曲集。1曲目はイギリス出身の世界的に有名なバンドPink Floydの楽曲のカバーです。オリジナル曲は1983年発売のアルバム”Final Cut”に2曲目として収録されています。

私はPink Floydもたまに聴きますがこのアルバムは持っていなかったので最近特別に聴き比べてみましたが、結論としてなかなか良いカバーだなと思いました。

One of the Few

同じくPink Floydのカバーで、オリジナルも”Final Cut”の作品で”Your Possible Pasts”の次の曲として収録されています。

Better of Dead

アメリカ出身のパンクロックバンドBad Religionのカバーです。オリジナルは1994年発売のアルバム”Stranger than Fiction”に収録されており、オリジナルの発表からわずか4年でのカバーということになります。このカバーは女性ボーカル中心です。

私はBad Religionというバンドを知らなかったのですが、原曲を聴いてみるとしっとりとしたカバーとは全く違うパンクロックでびっくりしました。Anathemaはこの楽曲の美しいメロディに着目して自分たちの音楽性に合わせたカバーを作ったんですね。

Goodbye Cruel World

最後はまたPink Floydのカバー。1979年発売の有名なアルバム”The Wall”でレコード2枚組のうちB面の最後に収録されています。

まとめ

Anathemaは時とともに音楽性を大きく変化させてきたバンドですが、ここから7thアルバム”Natural Disaster”までの4枚は一括りと考えることができると思います。

オルタナ的で比較的シンプルな音楽を演奏しながらもAnathemaらしいデリケートな雰囲気が感じられるこの時期はとても好きです。

“Alternative 4″には白眉の出来と言える楽曲が1曲にとどまらず数多くあり、音楽にメリハリもついた傑作アルバムといえます。

初期のドゥーム・ゴシック的なAnathemaが好きな方にも、この後のプログレ・アートロック的なAnathemaが好きな方にも、ぜひ聞いてほしいアルバムです。

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