Muse: “Simulation Theory” アルバムレビュー

イギリスの人気ロックバンドMuseのアルバム“Simulation Theory”(2018)のレビューです。

(発売日に書いた記事を前のブログから持ってきました。)

Museの新作”Simulation Theory”

Muse(ミューズ)はイングランド出身のスリーピースロックバンドで、ライブバンドとして世界的な人気を誇っています。ピアノとオペラ的ボーカルというクラシックな要素をアクセントに、激しく大仰なギターロックをトレードマークとしてファンを獲得してきました。

これまでにMuseが発表していたスタジオアルバムは7枚で、2018年11月9日に8thアルバムとなる“Simulation Theory”が発表されました。この記事は発売日に早速書いています。このアルバムはシンセサイザーを多用したエレクトロ・ロックです。

これまでも音楽性を色々実験してきたMuseですが、今回の変化はかなり冒険的で、アルバムのアートワークにも近未来的なデザインを採用しています。

しかし、このアルバムの収録曲のミュージックビデオまで観ればわかると思いますがこのスタイルには絶妙なダサさもあり、そこが面白いです。日本語ではありませんがアートワークに漢字も使われているのも微笑ましいです。

トラックリスト

1. Algorithm – 4:06
2. The Dark Side – 3:47
3. Pressure – 3:56
4. Propaganda – 3:01
5. Break it to Me – 3:38
6. Something Human – 3:47
7. Thought Contagion – 3:26
8. Get Up and Fight – 4:05
9. Blockades – 3:51
10. Dig Down – 3:48
11. The Void – 4:45

各曲レビュー

Algorithm

いきなりダークな曲が来ます。5曲の先行シングルにおける方向性から予想された通り電子的なリズムが使われた曲ですが、なぜかクラシック的なフィーリングもあるのが面白いところです。実際ピアノによるフレーズも登場します。

1分半以上の長いイントロの後に入ってくるボーカルはいつも通りです。特にサビに当たる部分は音数こそ少ないですがMuseらしい大仰さを感じられて非常に良く、ギターの音も聞くことができます。

後半では得意の裏声パートも登場します。アルバム全体への期待を高める、ワクワクするようなオープニング曲です。

The Dark Side

先行シングルになっていた曲の一つです。今までのMuseっぽさも感じられますが、やはり電子音中心の楽曲です。全体がキャッチーでサイズもコンパクトなので聴きやすいですが、その中で翳りのあるメロディが聴けるのが良いところです。

この曲は先行シングルで聴いた時も良いなと思ったのですが、実際アルバムの中で1曲目のAlgorithmの後に聴くとさらに好印象でした。

Pressure

これも先行シングルになった曲です。PVもそうでしたがどこか少し滑稽にも聞こえる楽曲で、リズムも陽気です。

リフのギターはMuseらしく覚えやすいですし、サビのメロディもわかりやすいのでフックに溢れた曲だと思います。サウンドにはレトロな雰囲気も感じられます。

この曲にはMuseらしいシリアスさがあまり感じられないので個人的にあまり好きではありませんが、中毒性は確実にあります。

Propaganda

演奏時間は3分と、長い曲がないこのアルバムの中でも特に短い曲です。いきなり男性の低い声とドラムの連打が入ってきてびっくりさせられますが、これは一瞬だけです。

ボーカルパートは空白の多いリズムに乗った、裏声による少し気持ち悪い歌唱。効果音のようなものが所々に入ってくるのも面白いです。基本的にはびっくりさせるパートと不気味な歌パートの繰り返しですが、非常に変わった曲です。

Break it to Me

4曲目のPropagandaに続いてまた奇抜な曲。リフのヘンテコなリズムの主張がかなり強いです。この音を何と表現したらいいのかわかりません。

少しラップ調のパートや裏声中心で翳りのあるメロディラインを歌うボーカルは今までのMuseに近いようで同時に新しくもあります。何の楽器のソロかわかりません(ギターなのかも)が、DJ的が作ったような不思議なソロも聞くことができます。

全体的に聴いていて不思議な気分になる曲です。個人的に4曲目のPropagandaとこの5曲目のBreak it to Meはあまり好きになれませんでした。

Something Human

先行シングルの一つ。6曲目にしてようやく「普通」といえる曲が来ました。

ボーカルのMatthew Bellamyによる力の抜けた優しい歌声が心に響きます。これまでの5曲のメロディが変なものばかりだったのもあって、この曲には癒されるばかりです。温かみが感じられる曲ですが、やはりこのアルバムの音を特徴づける要素である電子音はいくらか使われています。

Thought Contagion

先行シングルの中の一つ。イントロにもサビにも現れるリフが印象的な、ダークな雰囲気のある曲です。先行シングルとして聴いた時はあまりピンとこなかったのですが、このアルバムの中で改めて聴くと良い曲だなと思いました。

このアルバムに収録されている他の楽曲に比べると、この”Thought Contagion”はより今までのMuseに近いことがわかります。

Get Up and Fight

先行シングルでない収録曲の中で最も気に入ったものの一つです。

序盤を聴いているとなぜだか安心感が湧いてきます。サビはかっこいいと同時に明るく、元気が出るような感じがします。このアルバムでは珍しい正統派です。

曲全体を通してメロディが良く、奇を衒った感じもなく純粋に楽しめる曲です。特に最後のボーカルパートは圧巻。女声コーラスによるリフも印象的です。

Blockades

前曲のGet Up and Fightに続いて、この曲も先行シングルにはなっていませんが素晴らしい曲です。

雰囲気は再び電子音をバリバリ使った楽曲群に近くなっていて、後ろで流れているアルペジオなどはかなりエレクトロニカっぽいのですが、全体的に見るとシンプルにかっこいいです。メロディも秀逸でMuseらしさも十分にあります。

サウンド的には明らかに最初の5曲のような系統でこのアルバムを主導する新路線に属する曲ですがそういった楽曲群の中でダントツで良いです。ギターソロも非常にかっこよく、ぜひ注目すべき曲です。

Dig Down

先行シングルの中で最も早く発表された曲です。アルバムの発売から1年半も前の話になりますが、この曲を聴いた当時は次のアルバムがどうなってしまうのか不安で仕方ありませんでした。

最初は静かで深みにいるようなな雰囲気の良さがあるのですが、サビのコーラスは少し拍子抜けで、曲全体を支配するリズムもシンプルすぎて物足りない感じがします。

The Void

アルバムを締める曲。このアルバム中一番収録時間が長い曲ですが、それでも4分45秒です。

暗闇の中に響くような最初のヴァースにはダークな雰囲気があり、良い導入だと思います。中盤からは少しアップテンポで爽やかになるパートもありますが、最後には最初のような低めのテンションに戻ります。

音符の数は多くありませんが全てのメロディが秀逸で、Museの良さが存分に生かされていると思います。聴き心地は良いがつかみどころがないともいえる曲です。曲の一番最後のリズムが徐々に崩れていく部分が不気味でした。優れた演出だと思います。

まとめ

このアルバムは以前の作品群と雰囲気が全く違うので、リスナーが戸惑うのは必然だと思います。私もデジタル色の強いロックにあまり慣れておらずなかなか馴染めずにいますが、やはりどんな音楽をやってもMuseはMuseということで作品のクオリティは高いです。

早くも次のアルバムでどうくるのかが楽しみになってきました。

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