Pievos: “Likimas” アルバムレビュー

リトアニアのネオフォークバンドPievosのアルバム“Likimas”(2016)を紹介します。

とても意外なのですが、あるマニアックな通販サイトの商品紹介文を除けばこのアルバムのレビューはまだ日本語で一度も書かれていないようです。この傑作が日本に紹介されていないというのはとんでもないことなので、私がレビューを書きました。

Pievosのアルバム”Likimas”

このアルバムを聴いた瞬間に衝撃が走りました。

Pievosリトアニアネオフォークバンドです。

likimasは「運命」を表します。ちなみに前回のアルバムは2010年に発売されていて、Paprastas pasaulis(単純な世界)というタイトルでした。Likimasは6年ぶりの4thアルバムとなります。

私は以前からPievosを知っていましたが、CDもデジタル音源も入手することができずにいました。2017年3月にリトアニアに旅行に行った際にたまたま売っている場所を見つけたおかげで聴くことができるようになりました。

この時は3rdの”Paprastas pasaulis”と4thの”Likimas”をまとめ買い。1stはカセットのみの流通なので未入手、2nd”Mėnuli baltas”は3度目のリトアニア遠征でやっと手に入れました。

Likimasは2016年3月発売なので1年近く遅れての入手となりましたが、一生聴けないということにならず本当に良かったです。

今回は全体的に熱く語ってしまいそうなので早めに各曲紹介に進みます。

トラックリスト

  1. Paukščiai – 5:55 ★★
  2. Likimas – 7:59
  3. Slėnis – 4:40 ★★
  4. Aušra – 3:17 ★★
  5. Laimė – 5:34 ★★
  6. Tai nėr tavęs – 6:35
  7. Nei žole, nei paukščiu – 3:56 ★★
  8. Ieškojimas – 4:48 ★★
  9. Tu man sparnus davei – 4:34
  10. Nežinia – 5:28 

(なんと全曲お気に入りマークの★がついてしまいました…)

Paukščiai

「鳥たち」。いきなりどんよりとしたイントロ、湿気のあるエレキギターの旋律に驚かされます。

前作Paprastas pasaulisは晴天の草原のイメージが強かったのですが、これは厚い雲や雨をイメージさせる曲です。今まではあまりなかった6分という曲の規模に加え、どんよりとした重たい雰囲気が支配するこの曲を聴いた瞬間にファンは「Pievosどうした?」と思ったことでしょう。

ボーカルのVirginija Skeirienėの声も憂鬱げで、終始暗いムードが続くこの曲はPievosの音楽にしては新鮮ではないでしょうか。

私はこの雰囲気が大好きで、フォーク的な味を失わずにロックの重厚な音にPievosの音楽を組み合わせたのが成功の要因だと思います。人によって感じ方は違うので成功と言い切るのは不可能ですが、少なくとも私にはそう思えました。

この曲のハイライトは、後半の1分間にも及ぶメランコリックなディストーションギターのソロです。かなり作り込まれたソロですが、あくまで雰囲気の演出を重視したように聞こえました。だとしてもアルバムの冒頭からかなりの見せ場です。ここまでくるともはやフォーク系のバンドの音とは思えません。

このソロを弾いているのはKostas Kriaučiūnasです。彼はこのアルバムから3曲分の音源をYouTubeに上げてくれています。それらの曲にはリンクをつけたので聴いてみてください。

このPaukščiaiでバンドはアルバムの方向性を提示していますが、ここまで音楽性が変化してもバンドのフォーク性が失われたわけではありません。

リーダーでボーカル・アコースティックギター担当のVirginijaのボーカルは常に民謡的な響きを持っていますし、彼女のアコースティックギターの音はやはりサウンド面で大事な位置にあることがこういった音の中でも感じられます。

Likimas

「運命」。約8分にも及ぶタイトルトラック。

憂いのあるギターのアルペジオと、それに続くVirginijaの静かな歌で幕を開けます。ドラムが入るとテンポが上がり、馬が野を駆ける光景を想起させるリズムが現れます。これがこの曲の基本形となるリズムであり、その上で同じテーマが繰り返されます。

曲は1曲目と同じように常に暗いムードで、決して短調から抜け出すことはありません。効果音的な役割の音もうまく使っていたり全体的なムードのバランスや統一感が確立されているあたりにバンドのさらなる成長を感じます。

だんだんとVirginijaと思われるアコースティックギターの音も聞こえてきますが、同時にKostasのディストーションがかかったエレキギターも活躍しており、アコースティックな感触と重厚なイメージを上手に共存させています。

また二つ目の主題では一つ目と違う拍子を使うなど飽きさせない工夫も十分に施されていて、8分という長さにもかかわらず退屈することはありません。Virginijaの歌唱は1曲目よりもさらに民謡的です。

後半はエレキギターの割合が増えてフォークバンドとは思えないインストパートが聴けます。ここは素直にかっこいいのですが、かっこいいと言っても湿度が異様に高いところがポイントです。今まであまり長い曲を作ることのなかったPievosですが、これはまさに傑作と言って良いと思います。

Slėnis

「谷」。静かな名曲。

決して先を急ぐことなく全ての音を丁寧に聞かせてくれます。これもPievosの成熟を証明する楽曲となっており、私は特に気に入っています。

冒頭からギターとベースのユニゾンが美しいです。Virginijaのボーカルも落ち着いていて、それでいて民謡的な揺れもあり彼女の魅力がここにも詰まっていました。そのボーカルの後ろで奏でられているギターの優しい音色も絶品。このサウンドにはどこまでも癒されます。この曲のように作りに無駄がないというのもやはり名曲の条件といえるでしょう。

Kostasのギターは終始歪みを抑え、露のような響きを重視した音作り。中でも最も素晴らしいのは、最後のサビからアウトロにかけて静かながらも曲のクライマックスを迎える部分です。ここでの音の重なりはこの上なく美しいです。全体の盛り上がりとともに神秘の世界へ連れて行ってくれます。

この曲の歌詞は自分で訳しましたが、やはり美しい詞でした。実は”Paukščiai”とこの後登場する”Laimė”の歌詞も訳したのですが、こちらも素晴らしかったです。

Aušra

「曙」。聴きやすいのに個性的な曲です。

キーボードもこなすKostasのピアノのイントロの旋律が非常に印象的です。このフレーズはエスニックな雰囲気も含みながら現代的なロックの音にもうまく溶け込んでおり、これを軸に曲が進んでいきます。

この曲の聴きどころはそのフレーズとそれに従っていく他の部分の調和に尽きますが、アルバム中で一番キャッチーかもしれません。これだけ個性のあるテーマからそんな曲に仕上げてしまう手腕には脱帽です。

私はフォーク的なロックが好きなのでこういうタイプの音楽はツボですが、本当に普段ポップを聴いている人がどう感じるのかまではわかりません。

もしこのアルバムを手に入れられた方がいたらぜひ注目してほしい曲です。3分10秒余りとこのアルバムの中では特に短いですが内容が充実しており、物足りなさすら感じませんでした。

Laimė

「幸福」。アルバム中で一番衝撃的な楽曲はこれだと確信しています。大地か空か、人間のいるところとは違う場所から響いてくるようなVirginijaのボーカルは4行しかない歌詞をひたすら繰り返しています。

確かにフォークなのですが、音作りの面から見れはすでにジャンルの壁を越えています。そのためとても不思議な印象を受けました。一言で表すなら「頽廃的」でしょうか。これもぜひ聴いていただきたい楽曲です。

サウンドはかなり重厚でKostasのギターのディストーションはかなりきつく、Augstas Juknaのドラムもずっしりと響く演奏で威厳があります。

音楽に手作りも何もないかもしれませんが、手作り感の強かった今までのPievosの音楽とは違う次元に位置しており、霊的なインスピレーションすら感じられます。

この曲のみ作曲がKostasで、このアルバムでの彼の重苦しいギタープレイを聴けば納得でした。

私がこのアルバムの中で最も高く評価しているのがこのLaimėですが、それにはいくつか理由があります。

まず空気感の演出が見事であり、そういうタイプの音楽が私のリスナーとしての好みなのです。Virginijaによるボーカルは今までフォーク系の曲を歌ってきた経験をしっかりと生かした内容ですし、ギターはクリーン系・ディストーション系どちらも湿度をたっぷり含んでいて、主役となる後半での表現も見事です。

ドラムは自分で叩いたことがないため普段語るのを避けている楽器ですが、強弱をはっきりとつけることでこの曲の重量感を台無しにすることなく上手く聞かせていると思います。

思わず100点を出したくなるポイントは4分過ぎ、音量が最大の状態で突然2拍分が無音になる部分。ハッとさせられます。私はこの手の演出が大好きなので、それを大胆かつ完璧に決めてくれたPievosに拍手を送りたいです。

Tai nėr tavęs

「そこに君はいない」。現世離れした前曲とは打って変わって、アコースティックな音を中心に据えたシンプルな音作りの曲。

ハーモニカが聴けますが、これを演奏しているのは恐らくVirginijaだと思います。バイオリンの音も入っていて、シンプルな音作りながら一番多様な音色を混ぜているかもしれません。

これも明るくはありませんが、サビを聴くと少しポジティブな響きが見え隠れするように聞こえるところが絶妙です。重い曲だらけでも疲れるので、少し重さを手加減した曲を所々に据えてバランスをとっているのでしょうか。

Nei žole, nei paukščiu

「花でも鳥でもなく」。これはイントロだけでノックアウト必至の曲です。

このフルートの二重旋律はエスニック音楽を愛する方の多くが期待している姿そのものではないでしょうか。これだけ強力なフレーズを作っておいてこのパートを3回しか登場させないのはもったいないとすら感じます。

そのフルートだけでなくアコースティックギターのストロークをもう一つの主役とした全体的な音使いにも魅力があります。フルートは他の場面でも出てきており、清涼感のある演奏なのでこの曲をアルバムの中で際立たせる役割を果たしているのはこれだと思っています。

ボーカルをはじめ全てが明るめの雰囲気を帯びていて。ここまでアルバムを聴いてきて淀んできた心を浄化してくれるような印象も受けます。ただそれでも音楽的には短調が貫かれていて、ここにはPievosのこだわりと技術を感じました。Paprastas pasaulisの音楽性が好きな方には特におすすめです。

Ieškojimas

「探求」。貼った動画はフェスのものです。これはアコースティックアレンジされたもので、CDバージョンではエレキギターが活躍しているのでほぼ別物といえます。

一応ギターソロのようなものもあり、シンプルながらも音作りが秀でていて聴きごたえは抜群です。

この曲も落ち着いていて突き抜けた明るさはありませんが、聴いていて不安になるというよりは元気が出てくるような曲です。もしPievosはフォーク度が高すぎる!とか!Likimasは暗すぎる!とかいう感想を持たれた方がいらっしゃれば前曲とともにこの曲をおすすめしたいです。

私はこのアルバムに他にも好きな曲がたくさんありますが、個人的に一番前向きな気分にさせてくれるのがこの曲です。

Tu man sparnus davei

「あなたは私に翼をくれた」。アコースティックギターとバイオリンから始まる落ち着いた曲。

Likimasは暗い!ということをここまで強調してきましたが、最初の数曲にそういうイメージが強すぎるだけで、このあたりまでくると印象は変わってくると思います。

聴いていると平和な気持ちになってきて、揺れるような6/8拍子が使われていることもありとても心地よいはずです。印象に残るフレーズはあまりありませんが、全体的に優れていてバランスのとれた曲なのでそこは問題ではありません。

この曲は歌の比重が大きく、民謡的でありながら普通にも聴けるVirginijaのボーカルが十分に楽しめる楽曲であると思います。

この人の歌声のトーンは低めで、下手にキラキラしたような声でないところがPievosのような音楽で活躍できる要因でしょう。生で聴いたことはありませんが、少なくともCDを聴く限りかなり技術のあるボーカリストのように思えます。

Nežinia

「未知」。ここまでの9曲で燃え尽きたかのように哀愁のこもったアコースティックギターの弾き語りで始まる曲。

これまでアコースティックギターの音は他の楽器と一緒に奏でられることが多かったアルバムLikimasですが、ここでやっとアコースティックギターそのものの音を堪能できます。

本当に美しい音です。Virginijaのアーティストとしての本来のスタイルが恐らくこういう弾き語りなので、とても魅力的に響いています。

構成は歌なし部分と歌部分の2種類のテーマのシンプルな繰り返しで、後半ではKostasのピアノが加わります。この曲では彼はエレキギターをお休みしているようです。

なおこの曲で一番耳に残るフレーズは彼のピアノであり、明るくも暗くもない、やはり燃え尽きたようなユニークな響きを持っています。

最後はコーラスをバックにエンディングらしいちょっと泣けてくるようなインスト部分が現れ、最後にエフェクトがかけられて遠ざかっていくように例のピアノフレーズが単独で流れて静かに終わります。全ての音が消えるとここまで聴いて溜まった心地良い疲れがどっと押し寄せてくるように感じました。

まとめ

このアルバムは真の傑作だと思うので本気でお薦めします。

遠いリトアニアという国の一アーティストのCDをわざわざ手に入れるのは面倒かもしれませんが、それに見合うだけの感動を与えてくれることは十分に有り得ます。他のアルバムまで揃えることは難しいかもしれませんが、このアルバムには本当に感動したのでこんな記事を書いてみました。

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