ポーランド語の動詞の過去形における例外的な読みについて

ポーランド語の動詞の過去形

ポーランド語には、-ąćで終わる動詞がいくつもあります。

ここでは、動詞zająć(占める)を例にその過去形の発音を紹介します。

zajął (単数男性)
zajęła (単数女性)
zajęło (単数中性)
zajęli (複数男性人間)
zajęły (複数非男性人間)

変化を覚えるのは難しくないと思います。では、これらの形はどう読むでしょうか?

zajoł
zajeła
zajeło
zajeli
zajeły

読みはこうなります。このことを知っている人は多いかもしれません。青く示したところに注意してください。

ポーランド語は基本的に綴りを見れば読み方がわかる言語ですが、非常に少ないながらも例外は存在します。これはその一つです。

語幹になぜą, ęという2つのバリアントがあるのかは今回のテーマではないので省略しますが、動詞の過去形で鼻母音の後にł, lがくる場面では鼻母音が鼻音性を失います

そのためąはo、ęはeと発音されます。ą, ęのまま発音すると間違いになります。

ここで注意しておかなければいけないのが、鼻音性を失ったąはoでありaではないということです。これはポーランド語の正書法によって起こる問題で、ポーランド語のąは音韻的にはoの鼻母音で、記号ではǫと表されます。

これだけ覚えておけば、鼻母音が鼻音性を失う規則自体は難しくないので正しく発音できるはずです。

この記事では動詞の過去形における鼻母音の発音について扱いましたが、ポーランド語の鼻母音の発音にはもう一つ気をつけなければいけない規則があります。

それは、語末のęも鼻音性を持たないということです。実はポーランド人にもこのęを鼻母音として発音する人が多く、それが間違いであることを知りません。

ポーランド語歴史文法: 動詞の過去形における母音交替について

動詞の過去形

ポーランド語の動詞のうち、-ećで終わるものは過去形において語幹に2種類のバリアントがあります。

例えばmieć(持つ)という動詞では、

miał    (単数男性)
miała  (単数女性)
miało  (単数中性)
mieli   (複数男性人間)
miały  (複数非男性人間)

というように複数男性人間以外でa、複数男性人間でeが現れています。
他にもsłyszeć(聞く), krzyczeć(叫ぶ), obejrzeć(見る), myśleć(考える)などの動詞で同じパターンが現れます。

このe : aという母音交替はどこからきているのでしょうか。

ポーランド語の音韻変化

ポーランド語ではおよそ9世紀から10世紀の間にprzegłos lechickiという音韻変化が起きました。これはポーランド語が属するレヒト諸語全体で起こった変化で、現在残っている他のスラヴ諸語(カシューブ語を除く)には存在しません。

これは*ěが軟子音の後かつt, d, s, z, n, r, ł の前でaに変化するというものです。

現代ポーランド語におけるe : aの母音交替は全てここから来ていて、wiatr(風)が前置格でwietrzeになるのも、światが前置格でświecieになるのも、miastoが前置格でmieścieになるのもprzegłos lechickiの影響です。

przegłos lechickiの全体像については今後独立した記事を書きますが、ここで大事なのはこのタイプの動詞がほとんどの場合元々*-ětiという終わり方をしていたということ、そして過去形に現れるłの影響でěがaに変化し、lの前で変化せずに残ったěはeと同化したということです。

現在ではaが4つの形で現れる一方eは1つの形(複数男性人間)でしか現れないのでeが例外のようにも見えますが、歴史的にはaの方が後からできたのです。

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