ポーランド語の背景情報の説明が終わったので、ポーランド語自体を見ていくことにします。語学入門書は「文字と発音」から始まっていることが多いですが、ここではまず「文字」に注目してみます。
目次
ポーランド語のアルファベット
ポーランド語に使用されるアルファベットは「ラテン文字」です。英語と同じa, b, c…という文字で、ローマ字という呼び方がよりなじみ深いかもしれません。
一般人はラテン文字のことを「アルファベット」と呼びますが、「アルファベット=a, b, c…」というのは間違いです。ロシア語などに使われるキリル文字а, б, в…もギリシャ語に使われるギリシャ文字α, β, γ…もアルファベットです。
英語に使われる文字は26文字ですが、ポーランド語に使われる文字は32文字。英語にない分は弁別記号(ダイアクリティカル・マーク)付きの文字で補います。
ヨーロッパのラテン文字表記の言語はほとんど弁別記号付きの文字を持っているので、これがない方が例外ともいえます。しかし弁別記号があるとパソコンで入力するときに手間がかかるのがネックです。
ポーランド語の文字一覧
それでは、ポーランド語に使われる32文字を紹介しましょう。
文字リスト
A / a – ア
Ą / ą – オン または オ・ズ・オゴンキェム※1
B / b – ベ
C / c – ツェ
Ć / ć – チェ または ツェ・ス・クレスコン※2
D / d – デ
E / e – エ
Ę / ę – エン または エ・ズ・オゴンキェム※1
F / f – エフ
G / g – ギェ
H / h – ハ
I / i – イ
J / j – ヨト
K / k – カ
L / l – エル
Ł / ł – エウ
M / m – エム
N / n – エヌ
Ń / ń – エィン または エヌ・ス・クレスコン※2
O / o – オ
Ó / ó – オ・ス・クレスコン※2 または オ・クレスコヴァネ※3 または ウ・ザムクニェンテ※4
P / p – ペ
R / r – エル
S / s – エス
Ś / ś – エシ または エス・ス・クレスコン※2
T / t – テ
U / u – ウ または ウ・オトファルテ※4
W / w – ヴ
Y / y – ウィ または イグレク
Z / z – ゼト
Ź / ź – ジェト または ゼト・ス・クレスコン※2
Ż / ż – ジェト または ゼト・ス・クロプコン※5
補足
※1 「ズ・オゴンキェム」…z ogonkiemで「尻尾付きの」という意味です。
※2 「ス・クレスコン」…z kreskąで「線付きの」という意味です。
※3 「クレスコヴァネ」…kreskowaneで「線がつけられた」という意味です。
※4 「ウ・ザムクニェンテ」/「ウ・オトファルテ」…u zamknięte / u otwarteでそれぞれ「閉じたウ」「開いたウ」を意味します。この二つの文字の読みが同じなのでポーランド人はよくこのように区別しますが、理論的根拠のない呼び方です。
※5 「ス・クロプコン」…z kropkąで「点付きの」という意味です。
注意
źとżはどちらも「ジェト」となっていますが、発音が違います。しかし初心者にはわかりにくい発音の違いなので、この段階では区別があるということだけ覚えておけば良いと思います。
ポーランド語にない文字
英語にあってポーランド語にない文字は、q, v, xの3つです。しかし使用が禁止されているわけではなく、外来語に使われることがあります。
ポーランド語のアルファベットは32文字ですが、その内訳は
26(英語に使われる文字)
-3(英語にあってポーランド語にない文字)
9(ポーランド語独自の文字)
となります。
2文字の組み合わせ
発音についてのレッスンで詳しく書きますが、以下の文字列はひとかたまりとみなします。
ch
cz
dz
dź
dż
rz
sz
ここまでで覚えるべきことはもう説明し尽くしました。ここからは興味のある方だけ読んでください。
豆知識
ここからはポーランド語に使われる文字に関する豆知識を紹介していきます。
特別な文字
ą, ę
これらの文字は鼻母音を表します。世界的に珍しい文字で、他にはリトアニア語などがこの2文字を使っています。
ć, ń, ś, ź
これらの文字についている線は軟子音のしるしです。ポーランド語では子音に硬子音・軟子音の区別があります。これは英語にはない分類ですが、ポーランド語においては非常に重要です。
この4文字も世界的に見て珍しい文字と言えます。
ł
lに斜線が引かれたこの文字は特徴的です。現代ポーランド語ではlと大きく異なる音を表しますが、歴史的にはlのバリアントだったためlを元にした文字が充てられています。
ó
この文字の発音はuと同じです。なぜ同じ音を表す文字が2つあるのかというと、現在óで綴られる音は元々oに由来するからです。
ż
これも珍しい文字です。rzの組み合わせと発音が同じなのでややこしいですが、やはりこれにも歴史的な理由があります。rzはrに由来します。
j
実はこの文字は最初ポーランド語に使われていませんでした。1816年になってようやく導入が提案された文字で、それまではiやyが使われていました。
以前存在した文字
以下は過去に使われていたことのある文字で、現在では存在しません。正書法が統一されていなかった時代のものなのでこれらが使われていなかったりそれ以外の文字が使われていたりすることもありましたが、私が権威のある古いテキストに触れる中で出会ったのは以下の3文字です。
ø
これは鼻母音を表す文字で、2つの鼻母音は区別されず全てこれで書かれていました。
á
これはaの他に「oに近いa」という母音が存在した時代に使われていた文字で、”á”は普通のaを、”a”はoに近いaを表していました。
é
これはáと同時代、「iに近いe」という母音が存在した時代のもので、iに近いeを表していました。
これでポーランド語の文字に関わる話は終わりです。