[ポーランド留学]大学の授業7: ポーランド語の歴史音声学

ポーランド留学中に大学で受けた授業の紹介です。今回はFonetyka historyczna języka polskiegoという科目です。この回からはいよいよポーランド語学科の授業の紹介に入ります。

授業の構成・講師

これはポーランド語学科の学士課程二年生向けの授業です。私が受けたのは演習です。講義もありましたが、時間割が合わなかったので私は通っていませんでした。

演習を担当していた先生は30歳くらいの若い女性です。この人の専門はこの授業のテーマである歴史文法で、一般的にはポーランド語の歴史を研究しているそうです。なお、博士課程時代に二度も大学から賞をもらったらしいです。

喋り方には圧があって少し怖いのですが、生徒に人気があり話しかけられるとニコニコしていました。恐らくフレンドリーな人なのでしょう。

授業の内容

この授業ではスラヴ諸語から現代ポーランド語に至るまでに起こった音韻変化を勉強しました。

授業の目的はポーランド語の単語からスラヴ祖語形を内的再構し、そのスラヴ祖語形が最終的に現在の形になるまでに起こった全ての音韻変化を時系列順に説明できるようになることです。

音韻変化の種類は本当に多いので、授業では毎回2つか3つ取り上げられました。急ぎ足です。それぞれの単元は「理論の説明→練習問題」という流れで勉強していきました。

しかし、毎回授業の初めに行われる小テストではスラヴ祖語形の再構からその単語に起こった全ての音韻変化の説明まで、全部やらなければいけません。そのため、その時点までに出てきた音韻変化が全て頭に入っていないと解けないのです。

小テストでは毎回2つの単語をこういう形で解くのですが、制限時間が短い上に不合格だと再テストになるので、スパルタ方式といえると思います。

分厚い教科書が指定されていましたが、教科書を読むのは義務ではなかったので誰も読んでいないと思います。ただこの本は私が最も好きなポーランド語学の専門書なので、今でも家で読んでいます。Krystyna Długosz-Kurczabowa, Stanisław Dubisz著のGramatyka Historyczna Języka Polskiegoという本です。

この練習の他に、気分転換として毎回読み物がありました。何百年も前のテキストを印刷したものが配られ、学生がリレー方式で読み上げます。テキストは聖書の一部であることが多く、それは本というもの自体が貴重だった時代に出版できるものといえば聖書くらいだったからです。

読み上げるだけなら簡単と思われるかもしれませんが、綴りが今とは違うので推測しなければならず、さらに今では使われていない単語や形が頻出するので大変でした。こうしてテキストを読みながら、古い言葉を全員で分析していきました。

成功

この授業はポーランド語学科の難関の一つらしく、ポーランド語のネイティブスピーカーであるポーランド人学生たちもポカーンとしていました。もちろん理解が早い人たちもいましたが。

なぜポーランド人がこれに苦戦するかというと、母語であるポーランド語を論理的に理解した上でそれを新しく得た知識と組み合わせなければいけないからです。

日本語に置き換えて考えるとわかりやすいと思います。今使っている日本語単語を見せられて、「これを上代日本語に直してから現在の日本語に至るまでに起こった変化を全て説明してください」と言われてもポカーンとなりますよね。

この授業を一緒に受けていたのは全員ポーランド人だったのですが、私は非ネイティブとしてポーランド語を分析的な視点で見ることに慣れているので、全く苦労しませんでした。

私は聴講生ということで、2回目くらいの授業に突然現れて先生に受講許可をもらってから通い始めました。最初は先生も「今からテキストを配りますが、隙間しかないさん、ポーランド語の読みはできますか?」と半信半疑でした。

授業中に生徒が当てられて答えを言わなければいけないような授業だったので、先生も早い段階でこの人はついていけているとわかったと思います。それでも、中間テストが終わって「最高点を取ったのはなんと隙間しかないさんです」と発表された時は全員驚いていました。

順位は発表されていませんが、期末テストも良かったため最終的に最高評価の”5″をいただきました。私はただの聴講生で単位は記録されないのですが、それでも自分の好きな歴史文法で5をもらえたのは嬉しいです。

まとめ

この授業のおかげでポーランド語歴史文法に目覚め、今では最も関心のあるテーマになりました。今でもこの勉強を続けていますし、時々ブログにこの話題を書いています。

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