ポーランド語の東部訛りについて

ポーランド語には様々な方言があります。方言によって語彙や発音などに様々な違いがあります。その他に、標準語を喋っていても発音で出身地がわかってしまうということも時々あります。

日本語でも同じです。関西出身の人が東京に来て、イントネーションで関西出身であることがばれる、というのは日常的な光景だと思います。

また、外国人が日本語を話すとほとんどの場合日本語ネイティブではないことがわかるはずです。つまり、人は他人の発音を聞いて違いを感じ取るのです。

ポーランドでもこういうことが起きます。様々なタイプの訛りがありますが、今回は東部訛りをテーマにしましょう。

東部訛りの歴史

ポーランド語には東部訛りというものがあります。名前が示すように、これはポーランド東部のウクライナやベラルーシに近い地域出身の人がよく持っている訛りです。

そのほかに、新西部領土にこの訛りを持った人も多いです。新西部領土とは、第二次世界大戦後にポーランドが獲得した旧ドイツ領のことです。

ポーランドの領土は、以前もっと東にずれていました。現在リトアニアの首都であるヴィリニュスや現在ウクライナ領であるリヴィウはポーランド領内だったのです。

しかし、第二次世界大戦が終わって新しい国境線が定められた時に、その東部領土はソ連のものとなり、代わりにドイツ領であった地域(ヴロツワフ・シュチェチン)などがポーランドに与えられました。

この変更を受けて、旧東部領土に住んでいたポーランド人達は住処を奪われ、新しく獲得した新西部領土に移住することになりました。同時に新西部領土にもともと住んでいたドイツ人たちは追い出されました。

そのため、ポーランドの東端に住んでいた人々は現在ポーランドの西端に住んでいるのです。これが、新西部領土に東部訛りを持つ人々が多い理由です。

東部訛りの原因

東部訛りの原因は、東スラヴ語派の諸言語との接触です。東スラヴ語派に属するのはロシア語・ウクライナ語・ベラルーシ語で、ポーランドの旧東部領土はこれらの言語を話す人々と密接に関わっていました。

東部訛りの特徴

東スラヴ語派の影響による訛りなので、ロシア語に近く聞こえるポーランド語といえばわかりやすいと思います。

  • アクセントのある母音を長く伸ばす
  • 歌うようなイントネーションで話す
  • 硬子音であるべき子音を軟子音として発音する
  • łとlの発音が東スラヴ風である

などが東部訛りの発音の特徴です。ポーランド語に慣れると、聞けばわかるようになります。

訛りは訓練によって矯正することができるので、教養があり人前に出るような人はどこ出身であれほとんど訛っていません。それでも、たまに訛っている有名人を見かけます。

東スラヴ人の訛り

なお、東部訛りのような発音をするのはポーランド人だけではありません。ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人がポーランド語を話すと、東部訛りに近い現象が頻繁に起こります。

例えばウクライナ人はポーランドによくやってきますが、彼らはすぐにポーランド語を習得します。ウクライナ語(人によってはロシア語)とポーランド語が非常に似た言語だからです。しかしウクライナ人がポーランド語を習得する時、多くの場合ウクライナ訛りが残ります。

そもそも、外国語を習得して発音までネイティブレベルに持っていける人はほんの一部です。発音をネイティブにするには、自分がどう発音しているかに注意を向けて矯正していかなければなりません。

英語を話す日本人の中に発音がネイティブと変わらない人が少ないことを考えれば理解していただけると思います。発音をそのレベルに持っていくためには想像を絶する努力が必要なのです。

特にウクライナ人の場合はすぐポーランド語でコミュニケーションがとれるようになるので、もう習得したと思って発音に注意を向けない人が多いのではないでしょうか。ポーランド語がB2, C1レベル(かなり高い)でも気になって仕方ないほど訛っているウクライナ人を何人も見たことがあります。

実際の例

私の彼女はヴロツワフ近郊出身ですが、先祖がリヴィウの近くから戦後引っ越してきた東部の人たちであるため東部訛りをわずかに残しています。子ども時代におばあちゃんの家によく通っていたらしく、そのおばあちゃんが強い東部訛りを持っていたために彼女にも東部訛りがついたそうです。

彼女のお母さんはポーランド語の正確さや発音に敏感なため彼女の訛りを子ども時代のうちに矯正しましたが、それでも一部の単語では訛りが残りました。piosenka, szklankaなどです。

これらの単語でも本当に少ししか訛っていないらしく私はいつも気付かないのですが、お母さんの耳は敏感なようで毎回「また訛ってる」と言います。この訛りが治る日は来るのでしょうか。私はどちらでもいいです。

 

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