今回はポーランド語に関する豆知識です。Zakopane(ザコパネ)はポーランド南東部にある人気リゾート地ですが、不思議な格変化をします。
「ザコパネで」と言いたい場合は“w Zakopanem”となりますが、普通に考えるとこれはおかしいのです。ではなぜこういう形になるのか、この記事で説明します。
Zakopaneとは
ポーランド語を勉強している人の多くがZakopaneを知っているかもしれません。ポーランド南東部のタトラ山脈にある標高の高い街で、夏は避暑地として、冬はウィンタースポーツに絶好の場所として人気を誇ります。
マウォポルスカ県に属し、クラクフには比較的近い街です。
Zakopaneの格変化
Zakopaneは、ポーランド語の名詞という視点で見たときにポーランドの地名の中でも珍しい特徴を持っています。Zakopaneは形容詞変化の名詞で、性は中性です。
それでは、Zakopaneの格変化を見てみましょう。語尾にあたる部分を青色で示します。なお、Zakopaneは地名であり複数形で使われることはほとんどないので、複数形の格変化は省きました。
主格 Zakopane
生格 Zakopanego
与格 Zakopanemu
対格 Zakopane
造格 Zakopanem
前置格 Zakopanem
呼格 Zakopane
それでは、何がおかしいのかわかるように今度は形容詞ładny(美しい)をつけてładne Zakopaneとして格変化させてみましょう。この時、ładnyは形容詞でZakopaneにつくことで中性になるので、理論的にはZakopaneと同じ変化をすることになります。
主格 ładne Zakopane
生格 ładnego Zakopanego
与格 ładnemu Zakopanemu
対格 ładne Zakopane
造格 ładnym Zakopanem
前置格 ładnym Zakopanem
呼格 ładne Zakopane
気付いたでしょうか。Zakopaneの場合は、造格と前置格の語尾がおかしいのです。
形容詞の単数中性形の格変化では、造格と前置格の語尾が-ymになります。それにもかかわらず、Zakopaneの場合は語尾が-emになっているのです。
それでは、なぜこうなったのでしょうか。
歴史的な説明
ポーランド語の正書法は歴史上何度か改定されました。
1936年以前の正書法では、形容詞の中性形の単数造格・単数前置格の語尾が-emで、-ymが使われるのは男性形でした。
したがって、現在のように語尾が-ymで統一されたのは1936年以降のことになります。
つまり、当時の正書法にしたがってładne Zakopaneの変化表を作ると次のようになります。
主格 ładne Zakopane
生格 ładnego Zakopanego
与格 ładnemu Zakopanemu
対格 ładne Zakopane
造格 ładnem Zakopanem
前置格 ładnem Zakopanem
呼格 ładne Zakopane
ここでは造格と前置格で両方の語の語尾が-emで一致しています。他の格における形は現在と一緒です。”Zakopane”は古い正書法を受け継いでいる単語、つまり、1936年の正書法改正の時に例外として-emのまま残された語の一つなのです。
他に-emが残った例はpotem, przedtem, zatem, wtemなどの「前置詞+指示代名詞to」という構成の語です。
実は他にも語尾-emが残った例はあるのですが、非常に複雑です。県名に関わる表記です。せっかくなので、Zakopaneのあるマウォポルスカ県を例にとってみましょう。
マウォポルスカ県はポーランド語でwojewództwo małopolskieです。「マウォポルスカ県で」と言いたいときは前置格を使うので、”w województwie małopolskim”となります。
województwoは「県」を表す単語ですが、長いので省略することができます。その時、形容詞である後ろの語を大文字で始めます。マウォポルスカ県ならMałopolskieとなります。
この略語を使って「マウォポルスカ県で」と言いたいとき、”w Małopolskim”ではなく“w Małopolskiem”となります。語尾-emです。このケースは古い正書法のまま残ったのです。
“w województwie małopolskim”の時は語尾が-ym(kの後はyではなくiを書きます)なのに、”w Małopolskiem”の時は語尾が-emです。なんともややこしいですね。この規則はポーランド人も無視しているので覚えなくても問題ありません。