私がブログで主に取り扱うポーランド語が属するグループ、スラヴ諸語。しかしスラヴ諸語というものが何なのかわからなければブログを読むのも難しいかもしれません。ということで、この記事ではそのスラヴ諸語についてわかりやすく説明します。
目次
スラヴ諸語は何に属するか
「スラヴ諸語」というのはカテゴリー名ですが、この上に位置するカテゴリーは「インド=ヨーロッパ語族」です。
インド=ヨーロッパ語族というのは西はヨーロッパから東はインドに至るまで、広大な地域に分布する多くの言語が共通の祖先をもっているという説に基づいた言語グループです。
このグループには日本人にとって最も身近な英語、他にもフランス語やドイツ語、イタリア語などメジャーな言語の多くが属しています。有名な言語のうちこのグループに属していない例はアラビア語などです。
ここでいう共通の祖先とは何千年も前に存在したとされるインド=ヨーロッパ祖語のことで、ここから現代に至るまで言語が枝分かれしていき多くの言語が生まれました。
インド=ヨーロッパ語族には下位グループとなる12の語派が属しています。
- トカラ語派 (絶滅)
- インド語派 (ヒンディー語など)
- イラン語派 (ペルシャ語など)
- アナトリア語派 (ヒッタイト語など)
- アルメニア語派 (アルメニア語)
- ギリシャ語派 (ギリシャ語)
- アルバニア語派 (アルバニア語)
- イタリック語派 (ラテン語、フランス語、イタリア語、スペイン語など)
- ケルト語派 (アイルランド語など)
- ゲルマン語派 (ドイツ語、オランダ語、英語など)
- バルト語派 (リトアニア語、ラトヴィア語)
- スラヴ語派 (ロシア語、ポーランド語など)
スラヴ諸語にはどんな言語が含まれるか
これは厄介な問題です。というのも、どの言語を正式に言語として認めるかによってスラヴ諸語のリストが変わってくるので正確に言うことは不可能です。ある言語について一つの国はそれを言語と認めていて、別の国は方言とみなしているというケースもあります。
そこで、まず自分の国家を持っているスラヴ諸語のみを紹介します。
グループ1(東スラヴ語群)
- ロシア語
- ウクライナ語
- ベラルーシ語
グループ2(西スラヴ語群)
- ポーランド語
- チェコ語
- スロヴァキア語
グループ3(南スラヴ語群)
- セルビア語
- クロアチア語
- ボスニア語
- モンテネグロ語(モンテネグロはイタリア語名で、スラヴ風にはツルナゴーラといいます)
- スロヴェニア語
- ブルガリア語
- マケドニア語
補足
まず国家持ちの言語を挙げましたが、セルビア語・クロアチア語・ボスニア語・モンテネグロ語にはほとんど違いがありません。
それは、旧ユーゴスラヴィアの分裂により生まれた国々が、それぞれ自分の言語を持つために旧ユーゴスラヴィア語にそれぞれの国名をつけて公用語にしただけでそれぞれの人々は元々同じ言語を話していたからです。
また、西スラヴ語群には上ソルブ語(高地ソルブ語)・下ソルブ語(低地ソルブ語)という二つの少数言語があり、これらはスラヴ語圏でないドイツの領土内に存在しています。
スラヴ諸語の表記はラテン文字またはキリル文字でされますが、傾向としてカトリック圏ではラテン文字、東方正教圏ではキリル文字という傾向があります。
ここで紹介した以外にも、すでに話者がいなくなってしまった死語がいくつかあります。
スラヴ諸語の歴史
スラヴ諸語の共通の祖先はスラヴ祖語と呼ばれます。この言語はおよそ紀元前7-6世紀から紀元後6-7世紀に存在していたとされますが、皆さんが手にする文献によって時期に関する記述は異なるでしょう。
スラヴ祖語で書かれた文献は存在しません。この時代にスラヴ人が文字を持たなかったためです。そのため、言語学では様々な資料、特に書き残されている後の時代のスラヴ諸語をもとにスラヴ祖語を再構します。
その結果、この言語がどういう姿をしていたかがだいたいわかってきます。しかし、書き残された証拠がないためにその全ては仮説のままです。そもそも、スラヴ祖語自体が仮説の存在なのです。
それでも、証拠がないというだけが問題なのであって、これらの仮説は限りなく真実に近いとみなすことができます。
スラヴ諸語を表記するときには*というマークが添えられますが、これは文献によって証明されていない仮説上の形であることを意味します。
スラヴ語派における最初の文献資料はスラヴ祖語の分裂後、9世紀に現れました。キリル(ロシア語などで使われるキリル文字の名称の由来)・メフォディの兄弟がモラヴィア王国のラスチスラフの要請でスラヴ語圏にキリスト教を広めるために当時のスラヴ語の書記言語が発明されたのがきっかけです。
この書記言語を古代教会スラヴ語と呼びます。この言語が一番スラヴ祖語に近い姿を記録しており、研究上重要とされています。私はポーランドの大学で古代教会スラヴ語を勉強しました。
時代を遡れば遡るほど、スラヴ諸語同士は似た姿を持ちます。それはスラヴ諸語が、スラヴ祖語の時代から現在まで、木が幹からどんどん枝分かれしていくような形で発展を遂げてきたからです。