ポーランド語歴史文法: 男性名詞単数与格語尾-u, -owiの起源

このシリーズでは現在ポーランド語に存在する名詞の格変化語尾をそれぞれ歴史的に説明していきます。

現代ポーランド語の男性名詞単数与格

現代ポーランド語における名詞曲用パターン(体言には活用(koniugacja)ではなく曲用(deklinacja)という用語が用いられることに注意してください)は3種類あります。男性曲用、女性曲用、中性曲用です。

今回問題になるのは男性曲用(deklinacja męska)です。この格には2通りの語尾が存在します。

1. -owi
2. -u

このうちより頻繁に現れるのは-owiで、-uは例外とされます。どちらの語尾を使うかの基準は「単語による」で、-u語尾は限られた名詞にしか現れません。いくつかの名詞においては-owiと-uどちらも許容されます。

過去の男性名詞単数与格

スラヴ祖語時代には5種類の名詞曲用パターン(9種類に分類する考え方もありますがここでは5種類とします)がありました。男性名詞の大部分を含んでいた第1曲用における単数与格語尾は*-uでした。つまり、当時は*-owiよりも*-uの方が普通であり頻繁に出現していたということです。

では、-owi語尾はどこからきているのでしょうか。

スラヴ祖語第2曲用

スラヴ祖語の名詞曲用パターンのうち、第2曲用はたった6つの名詞しか含まない小さなグループでした。第2曲用とは、スラヴ祖語よりも更に遡ったインド=ヨーロッパ祖語で語幹-u-を持っていたグループです。

大昔、全ての名詞は3つの構成要素からできていました。語彙にかかわる部分+語幹形成接尾辞+語尾です。現在では2つ目の要素が吸収されてなくなっていますが、スラヴ祖語の初期においてはこの2つ目の要素によって語形変化のタイプが決まっていました。第2曲用ではそれが-u-だったということです。

その6つの名詞とは現在でいえばsyn, dom, miód, wół, wierzch, półです(półはかつて通常の名詞でした)。このグループの単数与格語尾は*-oviで、これが現在の-owiの起源になっています。

リトアニア語を見ると、synが-u-語幹名詞であるということがよく見えてきます。リトアニア語でsynにあたる名詞はsūnusですが、このうち語尾は-usです。インド=ヨーロッパ祖語においては、このうち*uが語幹形成接尾辞で、*sが語尾でした。スラヴ祖語では*sが消滅したので残っていません。

第2曲用単数与格の拡大

スラヴ祖語後期には曲用パターン間の混交現象が起こり、ある曲用パターンに使われている語尾が他の曲用パターンにまで使われるようになるということが起きました。

男性名詞の単数与格において大きな影響力を持っていたのは、第2曲用の*-oviでした。他にも男性名詞の単数与格には*-u, *-ě, *-iといった語尾がありましたが、この中で*-oviという語尾が広まっていきました。これらの語尾の中で*-oviが一番長く、聞き取りやすいためだと思われます。

これが第1曲用、さらに男性名詞を含む第4曲用(単数与格語尾*-i)と第5曲用-n-語幹(単数与格語尾*-i)の名詞に広がっていき、最終的には-i語尾の消滅、-u語尾の稀少化という結果を生みました。

なお、*-ě語尾は-aで終わる男性名詞に現れるもので、女性名詞と同じ変化ということで現在でも-eとして残っています。

第1曲用の*-u語尾は、現代ポーランド語の中性名詞の単数与格語尾-uとしても残っています。

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