リトアニア旅行エピソード: ヴィリニュス・Šv. Stepono 7の謎

リトアニア・ヴィリニュスでの謎解き体験をリトアニア旅行エピソード: 伝説のŠventaragis slėnisを探してという記事で紹介しましたが、今回も謎解きエピソードです。時系列的にはこちらの方が先です。

好きなアーティストの謎のアルバム

私はブログですでに何度か紹介しているAistė Smilgevičiūtė ir SKYLĖというアーティストの作品を良く聴くのですが、彼らのディスコグラフィの中に一つ不可解なものがあります。

それは1996年に発表されたŠv. Stepono 7というタイトルのアルバムです。段ボール紙に楽譜の断片や羽根が貼り付けられたデザインのCDには何の説明もありません。中身はというと、演奏はしているのですが曲といえるのかどうか微妙で長さもバラバラなトラックが7つ入っているだけです。

これがそのCDです。

そもそもタイトルが謎でした。Šv. が英語のSt. にあたるのは知っていたのですが、タイトルは一語でも文でもなく、7という数字も何を表しているのかわかりませんでした。

ただ聴くだけでなく何かを読み取りながら聴かなければいけない音楽だと感じたのですが、テーマがわからないためあまり頻繁に聴くことはありませんでした。

ヴィリニュスに行ってみると

リトアニア旅行で首都のヴィリニュスに行くことになり、私はPylimo gatvė(gatvė = street)という通りに沿ったホテルを予約しました。

バスでヴィリニュスに着いて、とりあえずPylimo通りを探しましたがこの時はもう夜で、暗かった上に土砂降りの雨で地図が使えず大変な思いをしました。

その時に偶然Šv. Stepono通りという場所を通りましたが、鈍感な私はこのとき「あのアルバムのタイトルと名前が被っている通りがあるのか」という感想しか抱きませんでした。

Šv. Stepono通りは長くて広いPylimo通りの横道であり、旧市街の外側へ向かう道なのであまり使いませんが、それでも何度か通りました。

もしかして

リトアニアに来て二日目でヴィリニュスでの勝手がわかり始め気持ちも落ち着いたところで、ふと気になったのが建物に貼ってある数字でした。通りの両端に下のプレートがあり、通りの途中では建物ごとに数字が貼られています。ヨーロッパでは普通の光景ですが、当時私は詳しくありませんでした。

これが表示の例です。こう書いてあればここの住所は”Šventaragio 2″。

私のホテルの住所はPylimo **(伏せてます)で、通りが長いと当てはまる数字を目指して歩かなければいけません。
住所を書く時にg.(gatvė)が省略されることもあります。Pylimo **, Šventaragio 2…
この語感、Šv. Stepono 7でも当然いけますよね。

つまり、ここでŠv. Stepono 7が住所を表している可能性にようやく気付きました。しかし、ピンポイントの住所をアルバムタイトルにするなどという気持ち悪い話は聞いたことがありません。

Steponoについては、聖人には詳しくありませんがたぶん聖ステファンという人がいてそれをリトアニア語でŠv. Steponasと呼ぶのだろうという予想をしました。同じ名前の通りはリトアニア中にありそうです。

※リトアニア語の名詞は7格×2(単数・複数)の14パターンに変化するので元々の形を推測する作業が常に必要です。例えばここではSteponoの-oという語尾を見て-asで終わるタイプの男性名詞Steponasの属格形であると特定しています。

現地調査

行ったら何かがわかる・わからないの問題ではなく行ってみるしかありません。

もう外は暗くなっていましたが、無意識に通り過ぎていたŠv. Stepono通りに行ってみました。何かすごいものが見れるのか、または何もないのか。

とりあえずいくつか仮説を立ててから行きました。

1. ライブハウス →ここでの演奏をCD化してタイトルは住所にしてみた。
2. レストランかバー →バンドの思い出の場所である。
3. イベントホール →ここに人を集めてアート系のイベントを行い、思い出として作品を残した。
4. なんか危ない組織が所有している →なんとかしなければいけないので勇敢にも音楽作品で挑発してみた。

7番に近づくにつれて心臓の鼓動がどんどん加速していきました。道も暗く、ヴィリニュスの街並み自体が手入れ的な意味であまりきれいではないので普段から観もしないホラー映画の主人公になった気分。そして、そこで見たものは…

特に何もなさそうな感じ。1階はオフィスっぽかったので玄関の案内を読んでみると、Creative Agencyという文字が。アーティストはクリエイティブであるべきなのでもしかしたら何か関係があるかも?

しかし冷静になって考えてみると、そもそも作品が出てから21年も経っているので建物の中身は変わっている可能性の方が高いです。このオフィスにもぱっと見時代を感じさせる要素がなく21年前からあるようには思えませんでした。

切り札

反則ですが、ホテルに帰ってから「あのŠv. Stepono 7ってヴィリニュスの住所ですか?」とアーティスト側の人にメールで聞きました。

答えは、「まさにそこが作品の録音場所であり、当時この通りは廃墟化していて誰も近寄らないようなひどい状況だった。市民がこの通りに目を向けてくれることを願って1995年9月23日にこの住所でパフォーマンスを行った」というものでした。

その時の映像を作品化したものがYouTubeに残っていて、そのリンクがついた当のメールはどうやら紛失してしまったようなのですがYouTubeサイト上でアルバムタイトルをキーワードに検索してみると見つかりました。

当時は本当に廃墟で、荒れ放題のまま装飾を施し少し不気味なパフォーマンスをする様子が見れました。

その動画がこちらです。

最後に

ヴィリニュスに来たおかげで謎が解けたわけですが、かなり刺激的な体験でした。もちろん、この最高の観光方法はガイドブックには載っていません。

ヴィリニュスの旧市街は今でも手入れが行き届いておらず、大通りですら少し寂れた雰囲気をまとっていて、狭い通りに入ってみるとここは本当に国の首都なのかという景色が広がります。

独立回復後の経済的困窮の影響がこのあたりに出ているのでしょうが、元は歴史ある素敵な街なのでSkylėのパフォーマンスのようにもう少し活性化の動きが出ればいいなと思いました。

それから1年半経って、ヴィリニュスに戻った時にこの場所を再び訪れました。

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