[ポーランド留学]大学の授業1: ポーランド語の歴史・構造・差異化

ポーランド留学中に大学で受けた授業を詳しく紹介していきます。今回はHistoria, struktura i zróżnicowanie języka polskiegoという科目についてです。

授業の構成・講師

これは国際ポーランド学学科の学士課程1年生向けの科目です。講義と演習に分かれていました。ポーランドでは一般的に授業がこの2種類のどちらかに分類されています。講義と演習で計2コマになっている科目もあれば、このどちらかしか持たない科目もあります。

この科目では、講義の先生と演習の先生が別でした。講義をしていたのは研究者としては若めの男性で、柔らかい語り口ながらもブラックユーモアの多い人でした。本も出版しています。

演習をしていたのは教授職で年齢的にも上の真面目そうな女性でした。恐らく古ポーランド語が得意分野で、外国人向けのポーランド語の教科書も書いている人です。私は偶然にもこの人の本を一冊持っています。

講義の内容

メインはポーランド語の遺産についてでした。ポーランドの部族名が初めて登場する9世紀のラテン語文書Geograf Bawarskiに始まり、ポーランドの固有名詞が登場するラテン語文書でポーランド歴史時代の始まりとなる1136年のBulla Gnieźnieńska、ポーランド語の文が文献として初めて登場する13世紀のKsięga Henrykowska、ポーランド語で書かれた散文として最も古い14世紀のKazania Świętokrzyskieなど、遺産の名前と特徴を勉強しました。

その後、ポーランドにおける印刷技術の普及とポーランド語の関係について学びました。

豆知識的な話が多く、ヴロツワフのシンボルの一つである観光名所Ostrów Tumskiの語源の説明が初回授業の導入だった記憶があります。

ロシア語のостровがわかればostrówが島を表すことは推測できます。実際、現代ポーランド語では「島」は基本的にwyspaですが、古ポーランド語ではostrówでした。

そしてこの単語は英語のstreamやポーランド語のstrumieńにも現れるインド=ヨーロッパ祖語の語根*srew-「流れる」とスラヴ系の接頭辞o-「周り」が合わさった形、つまり「周りを水が流れる場所=島」だというのです。(o + *srew > ostrów)

残るはtumskiですが、tumが教会を意味する単語であることからostrów tumskiは「教会のある島」と解釈できます。なお、現在Ostrów Tumskiは島でなくなってしまいましたが重要な教会があります。

歴史文法への導入として、スラヴ祖語に存在した母音イェルの知識を使った内的再構の紹介もありました。

例えば、pies「犬」(発音はp’es)という単語は格変化するとpsa(単数生格)になり母音eが消えますが、これはそこが元々eではなくイェルだったからです。イェルは後に母音化(ポーランド語ではe)するか消滅します。

以下がその変化です。イェルを青で示しました。

*pьsъ > p‘esъ > p’es(正書法ではpies)
*pьsa > p’ьsa > p’sa > psa

図書館に古い本を見に行くという授業もありました。

ポーランド語に対する興味がさらに強くなったという意味で、この授業には非常に満足しました。

演習の内容

演習では、ポーランド語における言語学の各分野を一通りさらい、その都度練習問題を解きました。主なテーマは音声学・形態論・統語論が主なテーマでした。

音声学ではポーランド語の正書法とは別物である音声学的表記を学び、子音の有声化・無声化や鼻母音の現れ方などを説明できるようにしました。

形態論ではテキストを見てどの単語がどのような屈折語尾を持っていてそれぞれの語尾が何を表しているかを指摘できるように練習し、さらに単語を見てその語がどのように構成されているか、ポーランド語で派生語を作る方法にはどのようなものがあるかを学びました。

統語論をやる時間はあまり残りませんでしたが、文を見て主語・述語・補語・修飾語などを見分けられるようになるための練習をしました。

この次の学期で聴講を始めたポーランド学科の授業についていくための知識がここで身に付けられた気がするので、この授業にも大いに満足です。

まとめ

授業名を見てもどんな内容なのかよくわからない科目ですが、この科目を通してポーランド語を専門的に勉強するための土台が築けるはずなので良い授業だと思います。

ポーランド語学科の授業ではありませんが、ポーランド語学科でやる内容はレベルが高く非ネイティブがついていくには厳しいので、外国人がポーランドに留学たときにこういう授業を受けることができれば理想的ではないかなと思います。

コメントを残す