リトアニア・ポーランド国境で不法滞在の疑いで止められた時の話

タイトルの通りです。なぜ不法滞在の疑いがかけられたのかというと、リトアニアからポーランドに陸路で移動するときにポーランドの学生ビザの期限が既に切れていたからです。結論から言えば不法滞在ではないのですが、私の経験を紹介します。

滞在期間と私のビザ

まず最初に、当時の私の滞在状況を整理しましょう。

ポーランド入国 2017/09/06
ポーランド学生ビザ 2017/10/01 – 2018/06/30
ポーランド出国 2018/09/12(ただし当時は未定)

ポーランドに入国してからビザが有効になるまで90日の観光ビザでポーランドに滞在し、それから2018年6月30日まで学生ビザでポーランドに滞在し、それから帰国するまで90日の観光ビザを利用していたことになります。

ヨーロッパ旅行をするときに問題になるシェンゲン協定には、「あらゆる連続する180日のうち90日を超えて滞在できない」という決まりがあります。

しかし、日本とポーランドは二国間協定を結んでいて、「お互いに入国から90日間はビザなしで滞在できる」という決まりになっています。

シェンゲン協定よりも二国間協定の方が優先されるので、状況は複雑です。

私の場合は学生ビザという長期滞在許可と90日の滞在許可(観光ビザ)の組み合わせになったので、このケースでどこまで滞在が認められるのかという情報が見つからず大変でした。

調べようにもワーキングホリデーをしていた人の情報が1人分見つかっただけで、非常に不安でした。そもそもポーランドに行く人が少ないので、滞在許可に関する情報も少ないのです。

大使館の回答

そこで直接在ポーランド日本国大使館に問い合わせてみると、答えはこうでした。

「長期滞在ビザを持っている場合、その前後それぞれ90日間は観光ビザで滞在できます。それは、長期滞在ビザの有効期間もシェンゲン協定の180日にカウントされるからです。また、観光ビザと長期滞在ビザは自動的に切り替わるので、ビザが切り替わるときにシェンゲン圏内から出なくても大丈夫です。」

つまり、私の場合は2017年9月6日に入国して翌月からビザが有効になったため9月中にシェンゲン協定による滞在可能日数90のうちの25を消化していますが、2017年9月6日から180日経った2018年3月の時点でシェンゲン協定による滞在可能日数は90に戻っているということです。

そうなると、例えば1年有効の長期滞在ビザを持っているとしたら理論的にはプラス180日、つまり約1年半ポーランドに滞在できるんですね。

私は長期滞在ビザが有効な間シェンゲン協定のカウンターが止まり、長期滞在ビザが切れた2018年7月1日の時点で滞在可能日数が65日しか残らないのではないかと心配していたのですが、そうではないようです。

また、ビザの種類が切り替わる時に一旦シェンゲン圏内から出なければいけないという噂も聞いていましたが、それも必要ないようです。もちろん、パスポートにスタンプがつくため一旦シェンゲン圏外に出た方が安全率は上がりますが。

国境警備官に止められた時のエピソード

この事件が起こったのは2018年7月29日です。ポーランドの学生ビザが2018年6月30日に切れた後ポーランドに滞在し続け、2018年7月26日にポーランドから陸路でリトアニアに移動し、2018年7月29日にリトアニアから陸路でポーランドに移動する途中でした。

ポーランドもリトアニアもEU圏内なので理論上はパスポートコントロールがないのですが、最近はEU圏内も物騒になっているので各国が抜き打ちでのパスポートコントロールを実施しています。

私はバスに乗ってリトアニアを出国するところだったのですが、ここでバスが停まり、リトアニアの国境警備官が乗り込んできてパスポートコントロールが始まりました。

私は一番後ろの席に座っていたのでパスポートコントロールを受けたのも最後でしたが、リトアニアの国境警備官は私のパスポートを見て質問を始めました。

「ヨーロッパに来たのはいつですか?」
「去年の9月です。ポーランドのビザがあるので見てください」
「ビザの期限が切れています。もうヨーロッパにいてはいけないはずですが?こっちに来てください」

と、私はバスから降ろされ、国境警備事務所に連れていかれました。バスは待ってくれるので荷物はそのままで良い、とのことでした。

パスポートコントロールをしていて私を連れてきた警備官(A)の他に、事務所にはもう一人の警備官(B)がいました。私が観察したところによると、警備官Bの方が偉い人ですが、英語は全く話しません。

警備官Aが私に向かって怒鳴り始めました。

“Problem! Problem!” この人も英語は片言です。

“What problem? I can stay in Europe for 90 days after the expiry of my visa.”(どんな問題があるっていうんですか、ビザが切れた後90日間はヨーロッパにいても大丈夫なんですよ)

私は何も悪いことをしていないという自信満々で答えました。

すると彼は事務所にあるパソコンでGoogle翻訳を使って”Temporary residence permission”という文字を出して、これを出せというような仕草をしました。

“I don’t have it but I don’t need it because, as I said, I can stay in Europe for 90 days. I confirmed it when I called Embassy of Japan in Poland. And there is an agreement between Japan and Poland that we can stay for 90 days without visa. You can find it on the Internet” (持ってませんが、持ってなくてもいいんですよ、先ほども言ったように、90日間はヨーロッパにいても大丈夫なので。在ポーランド日本国大使館に電話して確かめました。それに、日本とポーランドは協定を結んでいて、ビザがなくても90日間は滞在できます。インターネットで調べたら出てきますよ)

こういう内容を言いました。早口でたたみかけました。日本とポーランドの二国間協定に関してはリトアニアは関係ないのですが、捕まるのは嫌なのでとりあえず言えそうなことを全部言いました。

すると、二人目の警備官が誰かと電話を始めました。リトアニア語で話していたので内容はよくわかりませんでしたが、「90日」というワードは聞こえてきました。

彼は電話を終えると一人目の警備官に何かをリトアニア語で伝えました。すると、一人目の警備官は急に笑顔になり私に”OK”と言い、解放してくれました。

事務所には10分もいなかったと思います。疑いは晴れ、再びバスに乗り込み、国境を越えました。ポーランドの国境警備官によるパスポートコントロールもありましたが、こちらでは何も言われませんでした。むしろ「お、ポーランド語喋れるの?将来ポーランドに住んでみたい?」など優しい口調で話しかけてくれました。

後日談

こうして無事にポーランドに戻ることができたのですが、少しもやもやが残ったのでもう一度在ポーランド日本国大使館に問い合わせてみました。すると、このような回答が得られました。

「それは合法ですが、長期滞在ビザが切れた後の90日間はポーランド国外に出ることを控えた方が無難です。国境警備官は全てを知っているわけではなく、彼らの判断によっては拘束されることもあります。その場合は国境警備官の判断が最優先であり、大使館への問い合わせ内容を保証として使うことはできません、そうなってから大使館が口出しすることもできません。」

つまり、長期滞在ビザが切れてからリトアニアに行くのはリスクのある行動だったということです。

なお、最終的にポーランドを出国したのは2018年9月12日で、ビザが切れてから74日経っていました。この時、出国審査官が私のパスポートにスタンプを押しかけて止まったので、おそらく私がポーランドに長居しすぎだと思ったのでしょう。

そこで私は言いました。

“Jak coś, to miałem do czerwca wizę.” (もし何かあればですが、6月までビザがありました)

“Gdzie wiza? … a, okej” (ビザがどこにあるって?…ああ、はいはい)

これでスタンプを押してくれました。

ちなみにこれを書いていて「ところで、出国審査官に対してこの”jak coś”(もし何かあれば)という表現は無礼なのではないか?」と気になり始めたのでポーランド人に聞きました。「公的な場面で使う表現ではないが無礼ではない。ただ口語的なだけ」だそうです。

大使館の回答まとめ

最後に、これまでに大使館から得た回答をまとめましょう。

「長期滞在ビザを持っている場合、その前後それぞれ90日間は観光ビザで滞在できます。それは、長期滞在ビザの有効期間もシェンゲン協定の180日にカウントされるからです。また、観光ビザと長期滞在ビザは自動的に切り替わるので、ビザが切り替わるときにシェンゲン圏内から出なくても大丈夫です。」

「それでも、長期滞在ビザが切れた後の90日間はポーランド国外に出ることを控えた方が無難です。国境警備官は全てを知っているわけではなく、彼らの判断によっては拘束されることもあります。その場合は国境警備官の判断が最優先であり、大使館への問い合わせ結果を保証にすることはできません、そうなってから大使館が口出しすることもできません。」

いずれにしても自分のケースを説明して自分で確認をとった方が安心だと思いますが、この記事は一つの体験談として書きました。私が調べる側だった時はこういう記事が見つからなくて困ったので、後の人たちのために置いておきます。

コメントを残す