ある秋のこと、一匹のリスがこれからやってくる厳しい冬に備えて食べ物を集めていました。今年の春に生まれたこの子リスにとって初めての冬がやってきます。お母さんリスと暮らしていた間に冬支度の仕方を教わっていましたが、もう親離れをした身なので自分の力で食べ物を集めに行かなければなりません。
子リスは張り切って食べ物を探しに出かけました。ところが、冬支度が初めての子リスはなかなか効率よく食べ物を集めることができません。もし冬までに十分に食べ物を蓄えられなければ飢えてしまいます。凍えるような森の冬を乗り越えるのは簡単なことではありません。
この日もすでに太陽が傾く時間になり、徐々に空が暗くなっていくところでした。今日もあまり食べ物を集めることができませんでしたが、森の中は暗くなると危険なので子リスはそろそろ今日の仕事を切り上げて巣に帰ろうとしていました。
その時、他の木々よりもずいぶん高い木の上に大きな大きなクルミが一つなっているのを見つけました。子リスは目をきらきらと輝かせ、そのクルミを取ろうと木を登り始めました。しかしクルミはとても高いところになっていて、その高さまで登るだけでも一苦労です。体の小さい子リスが苦戦しているうちに、なんと空からやってきたカラスが先にクルミをもぎ取っていってしまいました。
子リスはがっかりしてこの日の食べ物探しを切り上げ、しょんぼりと自分の巣に戻っていきました。
次の日、少し早起きをした子リスは一日中森の中を食べ物探して走り回りました。しかし、いくら探しても小さなどんぐりしか見つけることができません。もしかしたらあの高い木にまだクルミがなっているかもと考えた子リスは、昨日と同じ場所に様子を見に行きました。すると、一つだけですがやはり大きな大きなクルミがなっています。
子リスは急いで木によじ登り、そのクルミを取りに行きました。ところが大きなクルミをやっとのことでもぎ取って頬の中に隠すために両手で口に運ぼうとしたその時、クルミがあまりにも大きすぎたためにバランスを崩してクルミを落としてしまいました。子リスはあわてて木から降りてクルミを拾いに行きましたが、あと一歩のところでたまたま通りかかった昨日のカラスに大事なクルミをとられてしまいました。
子リスは思わず声をあげました。
「カラスさん、そのクルミは僕が見つけたんですよ!返してもらえませんか」
するとカラスはクルミをくちばしにくわえながら、
「でも拾ったのは俺じゃないか、文句を言わずに巣に帰るか、それとも俺の巣に帰って餌になるか、どっちかを選ぶんだな」
お母さんリスはしばしば子リスたちにカラスに注意するようにと話していました。カラスはリスよりも強い動物で、リスを足でつかんで遠い所へと連れ去ってしまうからです。
子リスは大きなクルミよりも自分の身の安全の方が大事だと思ったので、仕方なくクルミを諦めてカラスに持って帰らせ、明日また自分で食べ物を探すことにしました。
次の日、子リスはまた食べ物を探し回っていましたがやはりなかなかうまくいきません。しかし、夕暮れ前に同じクルミの木の横を通りかかると、なんとまた大きな大きなクルミが一つなっているのを見つけました。今日はカラスの気配もないので安心しながらクルミを慎重に頬の中にしまい、巣の方向へ走り出そうとしました。
その時、このあたりで一番力の強い大リスが目の前に現れました。
「そこのか弱い子リスさん、今でっかいクルミを口の中にしまうところを見たよ。キミのような半人前にしか見えない子リスがそんなクルミを持ち帰るとは気に食わないね。ボクと力勝負だ。キミが勝ったらそのクルミを持って帰ってもいいよ、まあ無理に決まっているけどね。ケガをしたくなかったらボクに逆らわないでおとなしくそのクルミを渡すことだね」
この大リスはこの森では乱暴者として有名です。子リスはまだ1歳にもなっておらず自分の力に自信がなかったので、このタイミングで見つかってしまった運の悪さを嘆きながら泣く泣くクルミを渡して逃げ帰りました。
「いくら頑張ってクルミを探してもうまくいかないし、皆に邪魔されてしまう。きっと僕は食べ物集めに失敗して、冬を越せずに死んでしまうんだ」
子リスは恐怖にとりつかれ、この日の晩は巣で一匹泣いて過ごしました。
夜が明けました。森では日に日に寒さが厳しくなってきています。これはもう冬がすぐそばまで来ている合図です。この日もうまくいかなかったらお母さんを探して助けを求めるしかありません。しかし、生まれてすぐにお母さん離れするリスにとってそれはタブー。みんなの笑いものになってしまうかもしれません。
最後の望みにかけて今日もあの高いクルミの木を訪れると、地面にカケスの子供が倒れているのを見つけました。巣から落ちてしまったのです。まだ一人で飛べる年齢には見えませんし、落ちたときに羽根をケガしてしまったようです。
よく見るとクルミの木の枝の上にカケスの巣があり、巣の中からお母さんカケスが悲しそうに顔を出しています。
「そこの子リスさん、私は病気で息子を助けに行くことができません。でもその子は私の大事な宝物なんです。どうか息子を巣まで運んでくれませんか」
子リスはかわいそうなカケスの子供を背負うと、木の幹を伝ってお母さんのいる巣まで連れて行ってあげました。すると巣には他にも4羽のひなたちがお母さんカケスに身を寄せています。子リスは病気でやせ細ったお母さんカケスと小さな子供たちを見て胸が痛み、頬の中に入れていた大事などんぐりを全て渡してしまいました。
お母さんカケスは感謝のあまり涙を流しながら言いました。
「ありがとうございます、子リスさん。あなたは小さいけれど、なんて心の優しいリスなのでしょう。体が大きいだけで性格が悪い、森のみんなに嫌われているあの大リスとは大違いですよ。お礼といってはなんですが、子リスさん、実はこのクルミの木の幹には私たちが開けた穴があります。そこにはこの木になっている大きなクルミがたくさん入っているんですよ。私たちカケスはクルミの硬い殻を割ることができませんから、うちの家族には必要ありません。ぜひ全て巣に持って帰ってくださいな」
お母さんカケスが羽根で指し示した先には確かに小さな穴がありました。入り口が小さいわりに中はびっくりするほど広く、何十個もの巨大なクルミが入っていました。子リスはクルミを全部巣に持って帰ると、安心して深い眠りに落ちました。こうして子リスは飢えることなくこの冬を越え、二度目の春を迎えることができました。