リトアニアのネオフォークバンドŽalvarinisのアルバム“Žalio Vario”(2005)のレビューです。
目次
Žalvarinisとアルバム”Žalio Vario”
Žalvarinis(ジャルヴァリニス)はリトアニア・首都ヴィリニュス出身のフォークロックバンドで、2001年に結成されました。
バンドのリーダーであり音楽を作っているのはRobertas Semeniukas。彼はボーカル・各種ギター・キーボードを担当しています。さらにバンドには女声ボーカルが複数います。
これはバンドの音楽性がリトアニアの伝統音楽、特にSutartinėという単純なフレーズを様々な手法で繰り返す多声音楽を基本にしているからです。
歌詞はそれらの伝統音楽からとられていることからもわかる通り、バンドはリトアニアの民族音楽に大きな影響を受けています。しかしサウンドはメタルやプログレッシブロックの要素を取り込んだモダンなものです。
“Žalio Vario”は2015年に発売されたバンドの2ndアルバムです。2018年現在でスタジオアルバムは5作あります。
トラックリスト
1. Dijūta – 3:47
2. Aš Kanapį Sėjau – 2:42
3. Sauliutė – 3:20
4. Sūnus Naktojo – 4:48
5. Bitela – 4:06
6. Želektelis – 3:20
7. Skauda Galvelį – 5:58
8. Zallis Warris – 4:28
9. Alaus Alaus – 3:43 ★
10. Ožys – 3:38
11. Meška Su Lokiu – 3:23
12. Užugdė – 6:38
13. Ailiom Susėdom – 10:55 ★
各曲レビュー
Dijūta
恐らく民族音楽から来ているボーカルメロディがメタルの演奏に乗る曲です。ボーカルは女性で、かなり民謡的な歌い方をしています。
リトアニアフォークによく出てくる口琴もやはり使われています。メタル的な演奏はありますが、オーソドックスなので特筆するところはありません。
Aš Kanapį Sėjau
軽やかなリズムに乗った民謡曲です。女声ボーカルは複数人います。基本的に3名の女性ボーカリストを使っているようです。こちらの曲のギターはハードロック的でした。
Sauliutė
ミドルテンポで前の2曲よりおとなしい印象があります。ボーカルはやはり一つのメロディの繰り返しです。これがSutartinėの特徴でもあります。ギターソロも聞けるのですが少し平凡です。
Sūnus Naktojo
6/8拍子の楽曲。静かなイントロで始まり、ミステリアスなメロディが流れます。間奏では変拍子も使われていて、バンドのプログレ的趣味が垣間見えています。後半には笛の音が響く中長いギターソロが始まりますが、これは非常にヘヴィです。
Bitela
落ち着いた演奏の曲。少しプログレっぽいです。
Želektelis
少し陽気な曲です。バグパイプらしきものが鳴っていてフォーキーな響きがあります。この曲のギターソロは良いなと思いました。このバンドは基本ボーカルが女性ですが男声コーラスも入ってきます。
Skauda Galvelį
ゆったりと怪しげに始まります。しっとりとしていて、その上ここまでの曲の中で一番凝っている印象があります。中盤からは曲が展開していき、動きが出てくるので聴いていて飽きません。
終盤になるとメタル的なギターが加わりすでに序盤とは全く違った雰囲気になっています。Žalvarinisは繰り返し主体の曲が多いのですが、この曲は比較的長く展開があるので私のようなプログレファンでも楽しめました。
Zallis Warris
不思議な響きのある曲です。やはりŽalvarinisは単調すぎない方が面白いです。少しダークさもある、ロックらしい楽曲。この曲は恐らく古プロシア語で歌われています。
古プロシア語とは、リトアニア語と同じインド=ヨーロッパ語族バルト語派に属していて今は死語となっている言語のことです。現在使用されている言語のうちリトアニア語とラトビア語が含まれるグループであるバルト語派の中では、リトアニア語と古プロシア語派は別のグループに属しています。
Alaus Alaus
いきなりロック的に攻めてきます。リズムは6/8拍子。ギターの主張が強い曲で、ボーカルは男女混合コーラスになっています。このアルバムの中で特に秀逸な曲だと思います。
Ožys
口琴らしいイントロで始まるアップテンポの楽曲。パーカッションが主役です。ボーカルがそれぞれ違うフレーズを重ねていてまるでかえるの歌のようです。最後にはギターソロもありますが、全体的には少し単調かもしれません。
Meška Su Lokiu
低音男声ボーカルと女声ボーカルがほぼメロディのないフレーズを歌う不思議な曲。ハードロック的なギターソロもあり、ヘヴィなサウンドが聴けます。
Užugdė
謎のイントロで始まる楽曲。6分半以上あります。この曲のサウンドは独特でした。後半はロックっぽさが前面に出てきています。聴いていて不安になるような曲ですが悪くはないです。
Ailiom Susėdom
トラックは11分近くあるが実際は6分程度です。口琴と幻惑的なボーカルによるアトモスフェリックな出だしはリトアニアらしさに溢れています。徐々に音量が上がっていきますが、ここで鳴っているギターの甘い音は魅力的です。それにしても不協和音的なギターが独奏をしていてその奥から微かにこのボーカルが聞こえる様は不気味です。
ディストーションギターが加わるメランコリックなパートは催眠的でもあります。和音の組み合わせが特に面白いです。ギターの音色自体もメタル風味の暗い音で非常に気に入りました。この曲は普段のŽalvarinisとは全く違う雰囲気で新鮮ですね。
まとめ
Žalvarinisはリトアニアネオフォーク界ではメインとなるバンドの一つのはずです。今回紹介したのが2ndアルバムで、あまりはっとさせるような曲がないためアルバム全体での私の評価は低くなってしまいました。
しかし優れた曲もいくつかあったのでこれ以降のアルバムもしっかり聴いてレビューを書いていこうと思います。実は1stアルバムもまだ聴いていないので聴いてみます。