スイスのシアトリカル系プログレッシブロックバンドGalaadのアルバム“Premier Février”(1992)のレビューです。私が一時期ハマったアルバムです。
目次
Galaad
Galaad(ギャラッド)はスイス出身のプログレッシヴロックバンドで、90年代に2枚アルバムを残していますがあまり知られていません。
まずは足跡を簡潔にまとめます。
1988 結成
1992 1stアルバム“Premier Février”発表
1995 2ndアルバム“Vae Victis”発表
1997 解散
1stアルバムは70年代フレンチプログレの筆頭Angeとネオプログレの象徴であるFish期Marillionを混ぜたような音楽性です。つまりシアトリカル路線で音はネオプログレ。
他のバンドの名前で音楽性を語るのはオリジナリティを否定するようで好きではありませんが、このアルバムを聴いて瞬時にこのイメージがはっきりと浮かんだのでいつもこう表現しています。
Galaadについてはアーティスト紹介記事を書いており、そちらでバンドについて詳しく説明しています。↓
Galaadとの出会い
(アーティスト紹介にも書きましたが、このレビューはかなり前に書いたものでここにも出会いの経緯が書いてあったので残しておきます。)
私が当時聴いていたのはイギリス産のものがほとんどで、そろそろヨーロッパのものを、できれば英語以外のものを聴きたいなと思っていたところ中古CDショップでこの“Premier Février”(プルミエ・フェヴリエ)を偶然見つけたため購入してみたのでした。
同時にフランスのVersaillesの”Don Giovanni”というアルバムも買ったと思います。なおこの時はフランス語勉強中でした。
このアルバムの衝撃はなかなかのもので、買ってから3ヶ月くらいはこのアルバムばかり流していたと思います。
残念なことにインターネットでこのバンドについて書かれた文章を探しても日本語のものがほとんど見つからず、評価については不明なまま聴いていました。だからこそ今この記事を書こうと思ったわけです。
なお、1stを買ってから半年ほど経った頃にようやく2ndアルバムを手に入れることができました。その後ボーカルのPierre-Yves Theurillatの活動を追って新バンドL’escouadeやソロのPyTなども聴きましたが、最新ニュースとしてGalaadの再結成を知った時はやはり感動しました。
ではアルバムの紹介です。アルバムタイトルは「2月1日」です。
トラックリスト
1. Janus – 8:57 ★
2. Le Mendiant – 7:02
3. Petite – 5:08 ★★
4. Blasphèmes – 6:04
5. Votre Mère – 11:33 ★
5. Sablière – 12:01 ★★
7. C’est de l’Or – 4:47
各曲レビュー
Janus
初々しさを感じるオープニング曲。Janusという神は英語のJanuary, フランス語のJanvierなどの語の元になっていて1月の象徴ですが、「2月1日」というアルバムタイトルと関係しているのだとすれば少し面白いですね。
70年代プログレではなくネオプログレ、特にMarillionを手本としたようなバンド演奏(特にギター)に思わずニヤリとしてしまいます。
演奏力のせいかアンサンブルは浮ついた印象で、必要以上に入るキメや脈絡のない構成からなんともいえぬ「プログレ愛好家による素人バンド」感が出ているのがたまりません。
バンドがノリノリすぎてどこまでインストで引っ張るのかが気になってきたあたりで登場するボーカルは意外と本格派で、この手のバンドにありがちなしゃがれ気味の声ですが声質から受ける印象のわりに概してトーンが高いなと思いました。
長さもあり終始目まぐるしく展開する曲ですが重たい印象はなく、90年代になってもこの手のネオプログレバンドは生きていたのかと感慨深くなります。
Le Mendiant
1曲目よりはいくらか落ち着いてシリアスな演奏になります。といってもインスト部分を聴くとJanusと大きな差は感じられませんが。
Petite
比較的シンプルに作られた哀愁漂うバラードです。PyT氏によるかすれたファルセットを交えた歌唱は脆く美しく、涙を誘います。
5曲目を聴いて思いましたが、この人は普段あまりきれいな声をしていないのに素晴らしいファルセットを持っています。
Blasphèmes
「冒涜の言葉」というタイトルの通りこの曲が一番ダークだと思います。こういう曲ではフランス語の響きが強いアドバンテージになる気がします。
しかしこの時点でのGalaadは常に音が軽いので、迫力はいまひとつです。このあとの2曲がいずれも大作で目立つこともあり、数えきれないほど聴いた割にはここで書く内容に困りました。
Votre Mère
連続で配置された大曲の1曲目で、こちらで楽しめるのは美しい旋律、といったところでしょうか。展開はいつも通り目まぐるしく、11分半全く退屈させずに聞かせてくれます。
Sablière
2つ目の大曲はシアトリカルさにウェイトを置いた作品です。
イントロはピアノの独奏で、ここで登場する哀しげな主題はこの楽曲で最も重要な位置を占めます。
最初のボーカルバートはこの主題を受けていて、続いてフルート(これはゲストです)が主題を奏でるとこの上ない寂寥感が漂います。
最後の約4分間も主題のコード進行の繰り返しなので曲の半分くらいはコード進行が同じということになります。展開が多彩で見せ方もシアトリカルなため統一感を失わないための術なのでしょうか。
フランス語専攻のポーランド人の友達に歌詞を訳してもらいましたが、内容が難しすぎて理解できませんでした。
C’est de l’Or
エンディングは不思議な曲で、急に肩に力が入ったような雰囲気でした。こちらを聴き終わってもまだ”Sablière”の余韻の方が強く残っているかもしれません。
まとめ
2ndアルバムのVae Victisはバンドの演奏力と熱気が上がったおかげで聴きごたえが抜群になっていて、そちらを聴くとこの”Premier Février”は進化前の未完成な作品に見えてしまうかもしれません。
しかし、このアルバムはシアトリカル系のロックに必要なある程度の柔軟さをしっかり持っていて、隙がある分そこを楽しむことができます。
私は1stと2ndをそういう風に分けて考え、それぞれ違った聴き方をすることで両方に魅力を見出すことができました。しかし再結成したとはいえこの若い時期に2枚で終わってしまったというのは残念ですね。