ポーランドのプログレッシブロックバンドWalfadのアルバム“An Unsung Hero, Salty Rains And Him”のレビューです。
目次
Walfadのアルバム”An Unsung Hero, Salty Rains And Him”
Walfadはポーランド出身の若手プログレバンドです。
1stアルバム”Ab Ovo”は彼らの出身地シレジア地方をテーマにしたアルバムでしたが、2014年に発売されたこの2ndアルバム“An Unsung Hero, Salty Rains And Him”はタイトルが英語であるだけでなくなんとポーランド語歌詞バージョンと英語歌詞バージョンの2枚組で発売されています。
歌詞にも自信のあるWalfadがポーランド語がわからない国外のプログレファンまでもターゲットにしていることは明らかです。
私はWalfadをこのアルバムで初めて聴きました。普段ポーランド語バージョンのディスクを聴いているのでそちらを前提としてレビューしていきます。
トラックリスト
1. Smutna Pani – 4:30
2. Liście – 18:43 ★
3. Cztery Palce Jednej Ręki – 4:11 ★
4. Chocholi Taniec – 5:01 ★
5. Łzy Szatana – 7:43
各曲レビュー
Smutna Pani (スムトナ・パニ)
「悲しそうな婦人」。いきなり逆再生やディレイを駆使したイントロで始まり、この時点で早くも前回のアルバムからの変化が感じられます。
バンドのバイオグラフィーにはこの”Smutna Pani”がメンバーの大学進学直前に完成した曲で、アルバムの制作にあたってバンドは機材を一新していたことが綴られていました。
曲がわかりやすくなっただけでなく明らかに演奏力も上がっており、中でも聴きどころはギターの音作りと奇妙なまでに動くベースラインでしょう。
キーボードの迫力も増していて聴き応えが抜群に向上しました。アマチュア的な匂いが強かった前作とは打って変わって、よりプロフェッショナルな領域に近づいたといえます。
(こちらの音源は英語歌詞です。)
Liście (リシチェ)
「葉」。このアルバムの最大の目玉である18分43秒にも及ぶ組曲ですが、なんとこれを2曲目に持ってきました。これまでのWalfadのキャリアの中で最も優れた楽曲の一つであることは間違いありません。
フロントマンのWojciech Ciurajの歌はどんどん成長しており、彼の歌による導入部に続いて奏でられるギターソロは記憶に残る印象深さがあります。
この部分はまだ最初の3分程度なのですが、正直私はここまで聴いただけでこれは名曲だと確信しました。そして最後までそれが裏切られることはありませんでした。
若いバンドには長い曲を作りたかったけれど実力が伴わなかった、という作品も時々見受けられますが、このLiścieは演奏の安定感も作曲自体も十分なレベルに達していて、かなり説得力があります。
1stアルバムでは5分から8分のトラックがそれぞれ中でバラバラになっている状態でしたが、この楽曲はそれぞれの部分が有機的にまとめられている印象でした。
この曲はいくつかのパートに分かれていながらもどこを切り取っても哀愁に満ちているという点では一貫していますし、作曲におけるメロディセンスも大幅に成長しています。
それにしてもこの大曲を作った当時メンバーはまだ20歳そこそこのはずで、これは驚くべき事実です。
これほど早い段階で若々しさに徐々に円熟味が加わり始めたWalfadは3rdアルバムでさらなる成長を見せてくれたので、次のレビューもぜひ読んでいただきたいです。
Cztery Palce Jednej Ręki (チュテルィ・パルツェ・イェドネイ・レンキ)
「一本の手の四本の指」。今までになく迫力のある演奏が聴ける曲です。ギターの音はなかなかヘヴィです。また感情が滾るような曲想から少し開放的に聞こえるような響きに滑らかに移行する部分もよくできていて、決め手にはベースソロも不思議なエフェクトをかけたギターソロも聴け大満足です。
トラックは4分余りでコンパクトにまとまっていて、一方通行的に展開していくものの最後にはイントロが戻ってきてしっかりと締められる充実の楽曲です。
Chocholi Taniec (ホホリ・タニェツ)
「ホホウのダンス」。ホホウとは、藁で作られた人型の人形のことです。曲想は違いますが前曲に続き迫力あるキーボードのイントロから始まり、芸術的なボーカルパートとこのキーボードが交互に聴けます。
特に後半にさしかかるところで爆発するボーカルと、それに続いて奏でられるエモーショナルなキーボードソロパート、さらにはギターソロにバトンタッチする展開に感動しました。
欲を言えば少しぶつ切り気味の曲の終わらせ方の他にもっと良いやり方なかったかなと思いますが、素晴らしい楽曲です。個性も十分に出ています。
Łzy Szatana (ウズィ・シャタナ)
「サタンの涙」。ムード重視の傾向が見られる本アルバムでも特にその傾向が強い曲です。何度も繰り返されるインストテーマでのギターとベースの絡み合いが印象的です。収録時間は7分超えと、少し長さもあります。
Wojciechは控えめに歌っていて、ボーカルはあくまで曲の雰囲気に合わせるのみという意識が伝わってきます。この時点でWalfadのギターは彼一人になっていたので、結果としてこの曲ではギタリストとしての役割をより多く果たしていることになります。彼は歌だけでなくギターもしっかり弾けています。
そこまでテクニカルな演奏はないもののこの曲ではベースがメインに据えられているので、上手なのに普段後ろに退きがちな彼のベースが堪能できました。
実はこの時のベースはドラムのKacper Kucharskiの父親Maciej Kucharskiです。曲の一番最後に登場するのはなんと”Liście”に登場した印象的なメロディです。
まとめ
トラック数でいえば5曲しかないアルバムですが、それぞれの曲が充実しており傑作”Liście”も聴くことができます。
それだけでなく様々な面で前作からの成長が顕著であり、他の活発に活動しているプログレバンドと比べても遜色ない作品に仕上がっているなと思いました。
日本でも彼らのCDを取り扱っているショップがありますし、英語バージョンの制作が功を奏して国外のファンが増えていれば良いなと思います。次回は3rdアルバム”Momentum”のレビューです。