ポーランドのプログレッシブロックバンドAbraxasのメンバーとゴシックロックバンドClosterkellerのボーカルによるコラボバンドSvannのアルバム“Granica Czerni i Bieli”(2003)のレビューです。傑作です。
目次
- 1 Svannのアルバム”Granica Czerni i Bieli”
- 2 トラックリスト
- 3 各曲レビュー
- 3.1 Telefon… (テレフォン)
- 3.2 Znajdę cię (ズナイデ・チェ)
- 3.3 Pan Cukierjan (パン・ツキェリヤン)
- 3.4 Granica czerni i bieli (グラニツァ・チェルニ・イ・ビェリ)
- 3.5 Papapa (パパパ)
- 3.6 Dotyk Nocy (ドティク・ノツィ)
- 3.7 Księżycowy (クシェンジツォヴィ)
- 3.8 Książę (クションジェ)
- 3.9 Dziecko Mroku (ヂェツコ・ムロク)
- 3.10 Dziś każdy może być idolem (ヂシ・カジュディ・モジェ・ブィチ・イドレム)
- 3.11 Niedokończony wiersz (ニェドコンチョヌィ・ヴィェルシュ)
- 4 まとめ
Svannのアルバム”Granica Czerni i Bieli”
Svann(スヴァン?)はポーランドのロックバンドですが、一枚しか作品がありません。もしかしたら元々一枚限りのプロジェクトだったのかもしれません。
メンバーは以下の6人です。
・Anja Orthodox(ボーカル)
・Kinga Bogdańska(ボーカル)
・Szymon Brzeziński(ギター)
・Rafał Ratajczak(ベース)
・Marcin Błaszczyk(キーボード)
・Mikołaj Matyska(ドラム)
まず2人の女性によるツインボーカルについて見てみます。
Anja Orthodox(アニャ・オルトドクス)はポーランドのゴシックロックバンドを代表するClosterkellerのボーカルとしてすでに有名で、ゴシック系女性ボーカルに典型的な低めで少しドスの効いた歌声を持っています。
Kinga Bogdańska(キンガ・ボグダンスカ)は恐らく無名で、高くはないものの可憐で艶のある歌声のボーカリストでAnjaとは別系統です。
楽器担当の4人の男性メンバーは全員旧Abraxasなので、まとめての紹介ということで。
Svannが2003年に残した唯一作“Granica czerni i bieli”(グラニツァ・チェルニ・イ・ビェリ)はタイトルに「黒と白の境界」という意味を持つ11曲入りのアルバムです。
音楽性や演奏にAbraxasの名残が感じられるものの、こちらはボーカルが女性のみのためAbraxasとは違った味わいが楽しめます。
トラックリスト
1. Telefon… – 4:25
2. Znajdę cię – 3:33
3. Pan Cukierjan – 5:48 ★
4. Granica czerni i bieli – 7:01 ★★
5. Papapa – 4:08 ★
6. Dotyk Nocy – 6:50 ★
7. Księżycowy – 8:21 ★
8. Książę – 5:46 ★★
9. Dziecko Mroku – 6:24 ★★
10. Dziś każdy może być idolem – 3:37
11. Niedokończony wiersz – 8:24
各曲レビュー
Telefon… (テレフォン)
肝心の1曲目ですが特別深い印象はありません。
イントロから不穏で、さらにボーカルは歌うというよりまくしたてるように早口で話すので一瞬状況から取り残された気分になります。
これは彼氏の浮気を確信した女性が証拠をつかもうとしているうちに自分の気持ちまでわからなくなってくるという歌で、それがわかるとこの怒り狂うボーカルにも納得です。
ちなみに早口の部分などを歌っているメインの声がAnja Orthodoxで、Kinga Bogdańskaは早口の間にメロディを挟んでいる声です。聴き始めたら徐々に覚えていくと良いでしょう。
Znajdę cię (ズナイデ・チェ)
賑やかな1曲目から一転してこちらはテンションの低い曲です。この曲でもAnjaが歌をリードしていてKingaは脇役のみでした。
タイトルの意味は「あなたを見つけ出す」で、それへの執念を歌った曲。なぜ見つけようとしているのかはわかりませんが理由によっては少し怖いです。
Pan Cukierjan (パン・ツキェリヤン)
2曲目に続いてテンポは控えめで、少し似たタイプの曲です。
この曲でやっとKingaのメインパートが登場し、基本ザクザクとゆっくりリズムを刻んでいる本楽曲の中でその部分だけが長い音符による残響を利用した感情豊かな音作りになっています。
タイトルは「お菓子屋さん」。評判のお菓子屋さんはどことなく変なのですが、人々が謎を突き止めようとしても真実はわからず。実はお菓子屋さんはケーキに自分の血の雫を入れていた、というお話です。
Granica czerni i bieli (グラニツァ・チェルニ・イ・ビェリ)
この曲は少し長めでタイトルトラックでもありますが、この曲あたりからようやくこのアルバムの本当の価値が見えてくると思っています。
ピアノを混ぜた静かなアンサンブルをベースに、スキャットが遠くで響く中Anjaがまとまった量のセリフを囁き、それ以外の部分をギターのSzymonによる音数の少ないエモーショナルなギターソロが埋め尽くします。Szymonの実力はAbraxasですでに証明済みですがこのギターソロを聴くとさすがという感じでした。
アルバム中でメロディアスな歌を担当するのは主にKingaですが、この曲の後半におけるAnjaの表情豊かなボーカルも見事です。
Papapa (パパパ)
前の曲から雰囲気が180度変わってとても楽しそうな雰囲気が出ています。
Szymonもここぞとばかりに派手なリフやソロ、間を埋めるフレーズを弾いていて気持ち良さそうです。この人は基本的に前に出たがりなのかもしれません。
この曲は酔っぱらって歌い狂っている様子を表現していますが、Anjaの声ではよっぽど頑張らないと明るく聞こえないからなのかかなりはじけて歌っていました。
Dotyk Nocy (ドティク・ノツィ)
ここからの4曲は少し重いため根気が必要かもしれません。この曲のタイトルの意味は「夜の感触」。
少し怖がらせるような始まり方で、Anjaによるやはりホラー系のボーカルが入ります。夜に怯える主人公。
しかし何といってもこの曲の聴きどころはKingaによるサビであり、派手ではありませんが旋律も歌詞もとても甘いです。
主人公の絶望の呼び声に応え、もう寝なさい、自分がいるから怖がらなくてもいいよ、と優しく語りかけるKingaは一体誰の役なのでしょうか。
曲を締めるSzymonの長いギターソロも美しいので注目です。
Księżycowy (クシェンジツォヴィ)
アルバムで最も長い曲の一つで、しかも一番静かです。
リズムの反復やAnjaの珍しく高めの音域を使った口ずさむような歌からは少しミステリアスな香りがします。
全部で8分20秒ほどの曲ですが6分頃までほとんど変化はなく、そこまで待つとKingaの極上パートが聴けます。またしても美メロ。最後は再び元の雰囲気に戻ります。
Księżycowyは月を表すksiężycの形容詞形で、この不思議な曲と月は確かに印象が近いかもしれません。落ち着いて聴ける曲なので気に入っています。
Książę (クションジェ)
タイトルの意味は「王子」で、恐らくアルバム中最も泣ける曲です。サウンドは重めですがテンポは遅く、先の2曲と同じくAnjaに始まり大事なところをKingaが歌うという分担です。
個人的にKingaの歌はかなり好きなのですが、この曲のサビがベストだと思っています。
曲を締めるのはまたしてもSzymonの泣きのギターソロで、これも非常に秀逸でした。彼はどの曲でも期待を裏切らない信頼のギタリストです。
なおポーランド語ネイティブの彼女が「この歌詞は確実にアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる有名な小説「星の王子さま」をモチーフにしている」と言っていました。私はこの小説を読んだことがないので気付きませんでした。
Dziecko Mroku (ヂェツコ・ムロク)
タイトルの意味は「闇の子」。Anjaがずっとメインの少し枯れたような印象の曲で、いつものことながらSzymonのギターが魅力的です。
最初はこの曲の魅力に気付かなかったのですが、このアルバムを聴き込んでいくにつれてだんだん引き込まれていきました。
この悲しみに満ちた旋律は唯一無二だと思います。Anjaの情感に満ちたボーカルも完璧です。
そして、最後に現れるSzymonによるギターソロはあまりにも素晴らしいです。いつもこのソロのために何度もこの曲を再生してしまいます。
Dziś każdy może być idolem (ヂシ・カジュディ・モジェ・ブィチ・イドレム)
少し変わった曲で、跳ねるようなリズムとキーボードの半音階リフが痛快です。
ボーカルパートの一種としてセリフによる演技から成る部分が組み込まれているのも珍しいなと思いました。
少し長めのタイトルは「今の時代誰でもアイドルになれちゃう」ということで、現実世界で有名人のAnjaが一切登場せず全てKingaが歌っているのが歌詞の内容と関係しているとしたら少し皮肉ですね。
Niedokończony wiersz (ニェドコンチョヌィ・ヴィェルシュ)
タイトルの意味は「未完成の詩」。エンディング以上の意味合いはなさそうな曲で、前半Anjaが控えめに歌を入れるのみでほとんどがインストになっています。
男声メインの合唱も入り、同じコード進行が長い間反復されますが最後はSzymonの長いギターソロを楽しめるようになっており、聴き終えると強い余韻が残ります。
まとめ
今まで日本のインターネットでもこのアルバムに関していくつか文章が書かれているのを見ましたが、軽い紹介のみで重要盤として挙げられていることはなかったように思います。
日本語のSvann情報としては最も詳しく綴った自信があるのでぜひ参考にしていただきたいです。それでは。