イギリスのロックバンドAnathemaの傑作アルバム“Judgement”(1999)のレビューです。
Anathemaのアルバム”Judgement”
Anathema(アナセマ)はイギリス出身のバンドで、この時点ではゴシック寄りのオルタナティブロックを演奏しています。
前作”Alternative 4″では今までのドゥーム・ゴシックメタル路線から脱却し、この5thアルバム”Judgement”はその流れの延長線上にありますが”Alternative 4″よりもさらに聴きやすくなっています。
なお、このアルバムから所属レーベルがMusic for Nationsに変わりました。
アーティストについてのさらなる情報はアーティスト紹介記事に書いています。↓
トラックリスト
1. Deep – 4:53 ★
2. Pitiless – 3:11 ★
3. Forgotten Hopes – 3:50 ★★
4. Destiny Is Dead – 1:47 ★
5. Make It Right (F.F.S.) – 4:19
6. One Last Goodbye – 5:24 ★★
7. Parisienne Moonlight – 2:10 ★★
8. Judgement – 4:20 ★
9. Don’t Look Too Far – 4:57 ★
10. Emotional Winter – 5:54 ★
11. Wings of God – 6:29
12. Anyone, Anywhere – 4:51 ★
13. 2000 & Gone – 4:51 ★
デジパック盤ボーナストラック
14. Transacoustic – 3:49
メンバー
Vincent Cavanagh – ボーカル・ギター
John Douglas – ドラム
Dave Pybus – ベース
Danny Cavanagh – ギター・キーボード・”Parisienne Moonlight”のボーカル
ゲストミュージシャン
Dario Patti – “Anyone, Anywhere”のピアノ
Lee Douglas – “Parisienne Moonlight”と”Don’t Look Too Far”の女声ボーカル
各曲レビュー
Deep
1曲目は非常にキャッチーなミドルテンポの楽曲です。特に派手な場面はないのですがそれぞれのフレーズが印象的でなぜか耳に残るシンプルな名曲です。
サウンドは以前より比較的ソフトで、メタルをやっていた頃の面影もほとんどありません。
個人的に好みなのがサビに入るときに必ず合図として入るディストーションギターのグリッサンド。他の楽曲でもそうですが、こういった音がアクセントになり一見シンプルな楽曲を面白く聴かせています。
落ち着いた中に暖かさがあるようなサウンドで、聴いていて心地良いのが特徴です。このアルバムにはそういう曲が多く収録されています。なお”Deep”はシングルとしても発売されました。
Pitiless
前曲の余韻がまだ残る中始まる、1曲目に比べて強めのサウンドを持つ楽曲です。
Vincentのボーカルは以前に比べてナチュラルですが、ここでは暗めの声色を使っています。元々ボーカリストでなかったVincentがこの時点ですでに曲によって表情を自在に操っているのには驚きです。激しいもののテンポは速くなく、メロディも聴きやすいのでバランスが取れています。
聴きどころは1回目のコーラスが終わってから。ボーカルの背後で鳴る波のようなギターの上下音、それに続く歪んだ激しいギターソロなど、このアルバムを彩るディストーションギターが存分に使われています。
Forgotten Hopes
前曲からやはりノンストップで続いています。こちらは沈み系の楽曲で、非常にメランコリックなため私のお気に入りでもあります。
冒頭から陰気なアコースティックギターのアルペジオが美しいです。テンションの低いサビの旋律も突出して素晴らしく、メロディセンスに長けたAnathemaの魅力が詰まっています。この時期のAnathemaの良さはこの気怠さと美しさにあるのかなと思いました。
基本的に静かな楽曲であるもののやはりディストーションギターが活躍しており、ソロではそれが前面に出てきています。バランスがとても良く雰囲気も素敵なのでずっと聴いていたくなるような曲です。
Destiny Is Dead
3曲目からさらにノンストップで続く短いインストトラックです。間奏曲的でもあり”Forgotten Hopes”のアウトロのようでもあります。
ギターのハーモニクスを利用したフレーズが繰り返され、落ち着いていながらも不思議な雰囲気を醸し出している曲です。
Make It Right (F.F.S.)
“Judgement”からは”Deep”とともにこの曲もシングルとなりました。
薄暗系オルタナといった感じの聴きやすい楽曲ですが、サビ的な役割を果たすキーボードのリフレインが非常に印象的です。それ以外に目立った印象のある曲ではありません。どちらかというと歌よりもインスト中心の曲といえるかもしれません。
One Last Goodbye
佳曲揃いの”Judgement”の中でも目玉となる楽曲です。1998年、前作”Alternative 4″発売後に亡くなってしまったCavanagh兄弟の母親Helenに捧げられた曲です。
“One Last Goodbye”はスローテンポのバラードで、突出した部分があるわけではないのになぜかグッと来てしまう不思議な曲です。
当時Anathemaをほとんど聴いたことがなかった私にポーランド人の友人からこの曲のYouTubeリンクが送られてきたのをきっかけにこの曲を知りましたが、その時はもちろんCavanagh兄弟の母親の死の話も知りませんでした。
それなのに一聴しただけで感動したためすぐに気に入ってしまった、という思い出があります。ちなみにこれがAnathemaで最初に好きになった曲でした。
憂鬱な雰囲気と切ないメロディが魅力で、じっくり聴かせるタイプです。シンプルながらも独創的なアコースティックギターのイントロ、深みを帯びたヴァース部分、感情的なサビ、最後のギターソロとどこをとっても良い曲だなと思えます。
Parisienne Moonlight
この曲は短いながら強烈な印象を与えてくれます。
神秘的で重厚な音色のピアノアルペジオが伴奏となっていて、ボーカルはのちにバンドのメンバーとなるLee Douglas(ドラムのJohn Douglasの妹)と普段はボーカルをとらないギターのDaniel Cavanaghによるユニゾンです。魔力を帯びたメロディが曲全体を支配する極上の小曲。
Judgement
タイトルトラックです。シンプルな弾き語りで始まりますが曲調はダークでシリアス。徐々に盛り上がっていきディストーションギターも主張し始め、そのまま過剰なほどに加速していきます。
加速はVincentの絶叫と共に限界を迎え、曲の後半を支配する疾走インストパートへ。楽曲の始まりからは想像もつかない展開です。
この曲はアルバム中最もダークな楽曲とも言え、そういえば前作”Alternative 4″でもタイトルトラックが一番ダークだったなと思わされます。
実はこの曲は短縮されていて、疾走パートにもう一つボーカルパートがあるはずでした。”Panic”という楽曲として次のアルバム”A Fine Day to Exit”に収録されています。
Don’t Look Too Far
ダウナー系の曲調が心地良い楽曲。メロディもとても良いです。”Parisienne Moonlight”で歌っていたLee Douglas はこの曲にも参加しています。
この曲のシンボルはサビでの強力なワウギターで、これが楽曲のイメージを決定づけています。
その他にヴァースの最後になると聞けるギターの印象的なダウンストロークが非常に良い効果を上げていて、これは私の大好きな瞬間の一つです。
Emotional Winter
ギターの独奏による序奏が私にはイギリスのネオプログレバンドPendragonっぽく聞こえました。これもスローテンポのメランコリックな楽曲です。
9曲目に続きこの曲もサビで爆発するタイプで、どちらかというとソフトな曲調にメリハリがつけられているのが聴きやすい秘訣となっているのでしょう。
自然に使われているので私は気づくのが遅れましたが、5拍子で作られています。
Wings of God
アルバム中一番長い曲。冒頭から比較的激しめのサウンドが聞けます。ただ個人的な印象としてこの曲は他のトラックに比べるとフックがないかなと感じました。後半はプログレッシブなインストパートです。
Anyone, Anywhere
歌ものとしては最後のトラックで、ゲストミュージシャンによるピアノが中心の楽曲です。寂寥感のあるピアノのリフがこの曲の目玉です。
ボーカルは淡々と歌っていますがその旋律も美しいので聴きどころです。
ディストーションギターが演奏に加わるとサウンドに重みが加わり、響きにも”Judgement”の曲らしさが出てきます。ボーカルのハーモニーに注目です。この曲もお気に入りです。
2000 & Gone
最終曲は暖かなインストトラックです。アコースティック感が魅力です。同じフレーズが延々と繰り返されますが、アルバムを通して聴いて少しだけ荒んだ心を優しく包み込んでくれるような演奏はエンディングにふさわしいでしょう。
Transacoustic
このボーナストラックが収録されているバージョンは持っていないので省略します。
まとめ
“Judgement”は言い方によっては地味な楽曲群で構成されていますが、地味というのは使っている音が少ないという理由による部分が大きいだけで楽曲自体はそれぞれ質が高く、とても聴きやすいアルバムです。
この後似た路線でさらに2枚アルバムを発表した後8thアルバム”We’re Here Because We’re Here”で音楽性を次のステージに進めるAnathemaですが、それ以降にはあまり見られない翳りがあるというのがこの”Judgement”の魅力ではないでしょうか。