ポーランド語歴史文法: 動詞の過去形における母音交替について

動詞の過去形

ポーランド語の動詞のうち、-ećで終わるものは過去形において語幹に2種類のバリアントがあります。

例えばmieć(持つ)という動詞では、

miał    (単数男性)
miała  (単数女性)
miało  (単数中性)
mieli   (複数男性人間)
miały  (複数非男性人間)

というように複数男性人間以外でa、複数男性人間でeが現れています。
他にもsłyszeć(聞く), krzyczeć(叫ぶ), obejrzeć(見る), myśleć(考える)などの動詞で同じパターンが現れます。

このe : aという母音交替はどこからきているのでしょうか。

ポーランド語の音韻変化

ポーランド語ではおよそ9世紀から10世紀の間にprzegłos lechickiという音韻変化が起きました。これはポーランド語が属するレヒト諸語全体で起こった変化で、現在残っている他のスラヴ諸語(カシューブ語を除く)には存在しません。

これは*ěが軟子音の後かつt, d, s, z, n, r, ł の前でaに変化するというものです。

現代ポーランド語におけるe : aの母音交替は全てここから来ていて、wiatr(風)が前置格でwietrzeになるのも、światが前置格でświecieになるのも、miastoが前置格でmieścieになるのもprzegłos lechickiの影響です。

przegłos lechickiの全体像については今後独立した記事を書きますが、ここで大事なのはこのタイプの動詞がほとんどの場合元々*-ětiという終わり方をしていたということ、そして過去形に現れるłの影響でěがaに変化し、lの前で変化せずに残ったěはeと同化したということです。

現在ではaが4つの形で現れる一方eは1つの形(複数男性人間)でしか現れないのでeが例外のようにも見えますが、歴史的にはaの方が後からできたのです。

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