ポーランド語文学紹介: “Zanim zgasną gwiazdy”

初めて本のレビューに挑戦してみます。ただ、ポーランド語で読んだ本のレビューなので文学的なレベルはわかりません。そのため軽めに紹介します。
私が初めて読破したポーランド語の長編小説です。

※これは2017年に書いた記事をそのまま持ってきたものです。

概要

著者: Martyna Senator
タイトル: Zanim zgasną gwiazdy
発売: 2016年

買った理由は、デザインがきれいだからです。星空系が好きなので。あと本屋さんに行くと恐ろしいほど分厚い本も多いので、コンパクトなのも魅力でした。

タイトルは「星々が燃え尽きる前に」とでも訳したら良いのでしょうか。「ザニム・ズガスノン・グヴィャズディ」と読みます。若者向けで、全232ページのそこまで長くない小説でした。作者はMartyna Senator(マルティナ・セナトル)さんです。

内容の方はどうかというと、かなり良かったです。わからない単語があると流れがわかっても詳細がわからないということも起こりますが、そこまで難しくもなくおかげでストーリーに集中できました。

あらすじ

実際に読む人はいないと思うのでネタバレも何もないですよね。
この小説は現在編・過去編・未来編の順で三部に分かれています。主な登場人物はヴォイテク君とミレナちゃんです。

現在編

小説は奇妙な夢の場面から始まります。20歳のヴォイテク君という男の子は電車のホームにいて、謎の猫と女の子に出会い、砂時計を見せられ「この砂時計が終わる前に彼女を助けて、そうしなければ彼女は死んでしまうから」と言われます。何のことかさっぱりわかりません。

ヴォイテク君は目覚めると病院にいて、車で事故に遭い後遺症として記憶喪失になったと告げられます。同居人も医者も、記憶は自分で取り戻さないといけないと言って何も教えてくれません。傷が治って退院すると記憶を取り戻すための生活が始まります。

ヴォイテク君は経済を学ぶ大学生で、家にはたくさんの絵があり、なんと自分が注文に応じて絵を描いて売ることで大儲けしていたことを知ります。銀行口座には大金が。しかも高級車まで持っていました。

文学でもなかなかありえない、むしろゲームっぽい設定ですよね。
しかし、記憶喪失の後遺症なのか幻覚に悩まされます。

その後、ある場所でミレナちゃんという女の子が銃を持った双子の男たちに命を狙われている場面に遭遇しそこから救出するのですが、なんとこのミレナちゃんは夢に出てきた女の子なのです。ありがちな展開ですが…

ミレナちゃんは21歳(だったと思います。本は日本に置いてきたので確認できません)で、小さいころに母親を亡くし父親と二人で暮らしているのですが、父親はあまり面倒を見てくれず一人で家にいることに慣れています。ミレナちゃんは先ほどの双子になぜか狙われているので、ヴォイテク君は彼女をかくまうことになります。

ヴォイテク君は財力と車を駆使して「黒いバン」で追ってくる双子の男から逃げまわります。読んでいると黒いバンがトラウマになりそうです…。双子の男のアジトを突き止めに博物館に入って、道を開くために金にものを言わせて高価な絵画を買うシーンがけっこう好きです。

双子の男たちとは何度も遭遇することになり、その上相手は車と銃を持っているので、かなりギリギリの場面もありハラハラしました。個人的にはこういう緊張感はあまり得意ではないです。

ある時黒いバンを乗っ取るために作戦を練って乗り込んだヴォイテク君は、車の中のモニターに奇妙な文章を発見しました。「ミレナは死ぬことになっていた時に死ななかったので殺さなければいけない」という内容です。死ぬことになっていたというのも少し謎です。

過去編

小説の構成は現在編4: 過去編4: 未来編2くらいだったと思います。そのためクライマックスは過去編にあります。この過去編は記憶を取り戻し始めたヴォイテク君の過去で、全てが明らかになります。

ヴォイテク君は実は死の天使で、普通の人間は彼を見ることができませんが見た目は普通の人間で、翼もありません。ミレナちゃんの母親の臨終に立ち会ったときにミレナちゃんに心を惹かれ面倒を見たいと思い、それからミレナちゃんをずっと見守っていました。

そして、ついには不死という天使の特権を放棄して人間になることを決意したのでした。

しかし天使が人間になると今までいなかった人間が1人増えることになるので、アイデンティティの問題が発生します。そこで、行方不明になったヴォイテクという名前の人間の男の子のデータを奪ってヴォイテク君は人間界に忍び込みました。

ヴォイテク君は人間になってミレナちゃんの彼氏になりました。ミレナちゃんが大学で奨学金をとるためにあまりにも根詰めすぎるのでヴォイテク君が二人で海へ行こうと提案するのですが、二人は道で交通事故に遭います。ミレナちゃんは昏睡状態に陥り、ヴォイテク君は天使時代の仲間だったステラに助けられたのでした。

ヴォイテク君はステラや天使界のボスと話し合い、ミレナちゃんを昏睡状態から救う方法を考えます。

設定として眠りには3つの段階があり、1番目が普通の眠り、2番目が深い眠り、そして3番目は地獄(だったと思います)です。

2番目と3番目の壁は普通飛び越えることができないのですが、昏睡状態の人のみがここを飛び越える可能性を持っています。ミレナちゃんは恐らく3番目の段階まで行ってしまっていて、ここから救い出すにはヴォイテク君が地獄に行きいくつかある扉から連れ出すしかありません。

しかし、地獄に入る時には記憶を置いていかなければならないという決まりがあります。しかも地獄によそ者が入ると時間の問題で死の番人に察知され、彼らに捕らえられると永遠に地獄から出られません。

つまり、ヴォイテク君のミッションは記憶喪失の状態で地獄に潜入し、自力で何のために来たのかを思い出し、かつ死の番人に気付かれて捕らえられる前にミレナちゃんを見つけて地獄から連れ出し、生き返らせることでした。

最初の夢の場面に出てくる砂時計と「この砂時計が落ちる前に彼女を助けて」という言葉も、地獄に来る前のステラとの記憶がかすかに残っていたことを意味していました。

ここで全てがつながります。現在編は実は地獄の世界、つまり第三段階の夢です。ヴォイテク君が交通事故で記憶をなくしたというのもこの世界での設定であり、実際はヴォイテク君が自分で記憶を放棄して物語のスタート地点に立ったのです。

ミレナちゃんが双子の男に狙われているのは、ヴォイテク君が死に関する法則を破って助けに来たからです。同居人たちが記憶を取り戻す手助けをしてくれなかったのもそのためで、彼らは架空の人物です。

全てを思い出したヴォイテク君は双子の男が死の番人であるということにも気付きます。彼らは犯罪者ではなく単に地獄で警備をしているだけだったということです。そして、死の番人は彼らだけではありません。ヴォイテク君の正体がばれるとなんとおびただしい数の死の番人がヴォイテク君とミレナちゃんを追いかけてきます。

ミレナちゃんに真実を告げることも禁止されているのですが、怖がるミレナちゃんに「これは夢で、念じればいつもより早く走れるしビルだって飛び越えられるからついてこい」と伝え、次々と閉まっていく外の世界への扉の最後の一つへ向かいます。結果、ミレナちゃんは出ることができたものの、代わりにヴォイテク君は間に合いまいせんでした。

未来編

ミレナちゃんは現実世界で目を覚まし、昏睡状態で眠っていたことを告げられます。ミレナちゃんの頭の中にはヴォイテク君の記憶が残っているのですが、ヴォイテク君が地獄に閉じ込められてしまったため彼が存在したという事実は消去されてしまいました。そのため、ミレナちゃんは誰にヴォイテク君のことを話しても信じてもらえません。

ヴォイテク君と海に行って自動車事故に遭ったんだと周りの人たちに話しますが、ミレナちゃんは一人で事故に遭ったし現場にはミレナちゃんしか倒れていなかった、と皆が口を揃えて言います。。

ミレナちゃんはこの状況とヴォイテク君ロスによって生きる希望を失ってしまいます。

それを見かねたステラはミレナちゃんのもとにこっそり現れ、ヴォイテク君が地獄に潜入する前に記憶を移した玉を渡し、これを使えばいつでもヴォイテク君のことを思い出せるからと言って去っていきます。この小説に何度か出てくる猫はステラのものなのです。

ミレナちゃんは相変わらず放心状態でその玉の記憶を見てほとんどの時間を過ごすのですが、やがてミレナちゃんが一人でもやっていけるように、そして新しいことを始められるようにヴォイテク君が願っていたことを知り、少しずつ日常生活に戻れるよう簡単な活動からリハビリを始めます。

そして日常を取り戻したミレナちゃんはヴォイテク君との物語を小説にし、それで新人作家賞を獲ります。

記者の女性がミレナちゃんの記事を作ろうとインタビューに来るのですが、これからの計画などを聞かれたミレナちゃんは、小説はこれ以上書かない、なぜなら自分が書いた小説は個人的な自分のための物語だから、と告げます。これでこの小説は終わりです。

まとめ

この短い小説の中にこれだけ変化やどんでん返し(つまり後半でそれまでのことが全部幻だとわかる)が組み込まれているにも関わらず詳細を省略しすぎているように感じる部分もなく、泣かせてくる物語構成と展開にやられました。私はけっこう作り話に弱いので、最後の方は目が涙で濡れている状態でした。

この小説の作者はMartyna Senatorさんで、これはこの人が書いたフィクションです。しかし小説の中の世界でミレナちゃんが書いた小説はこれとほぼ同じ内容と思われます。そこでは実話に基づいた物語を書いたということになるので、これは面白い二重構造だと思います。

初めて読んだポーランド語の小説でしたが、内容的にも気に入ったので良かったです。

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